校長ブログ

ノーベル物理学賞に見る探究学習の原点

2021.12.01 トレンド情報
12月1日

 プリンストン大学の上席研究員である真鍋淑郎氏(90)らにノーベル物理学賞が授与されることが決まりました。温暖化の原因を科学的に分析した研究であり、物理法則をもとに、大気中のCO2濃度の上昇が地表の温度上昇につながることを実証、気候に与える影響を明らかにされました。これは脱炭素をめぐる議論につながっていきます。

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 日本では、自然科学分野でのノーベル賞は25人目、気候研究の分野でノーベル物理学賞は今回が初めてとのこと。真鍋氏は東京大学で博士号を取得した後、渡米、米気象局に入り、多くの要職を歴任、米ベンジャミン・フランクリン・メダルやスウェーデンのクラフォード賞など有力な国際賞を受賞されています。

 手がけられた気候変動モデルは、地球上の物理現象をコンピューターでシミュレーションするというものであり、現実世界をデジタルで再現する地球規模のデジタルツインに結びつきます。研究成果は、地球温暖化など、将来予測をする道具として使われています。

 歴史的に見れば、1988年、NASA(米航空宇宙局)の研究者であるジェームズ・ハンセン氏が「人為要因による温暖化が99%の確率で起きている」と発言、世界的な反響となりました。真鍋氏らは、大気中の温暖化ガスによって地球の気温はどれだけ上がるのかという問いに対する答えを、計算によって導き出したのです。

 近年、温暖化が一因とみられる熱波や豪雨が頻発しています。対策として、2020年からパリ協定が始動し、国は温暖化ガス排出削減の加速を迫られています。パリ協定は、地球の気温がこれ以上上昇すると申告な災害が勃発することを想定し、工業化前に比べ、1.5度以下に抑える目標を掲げています。そのためには、温暖化ガス排出を50年に実質ゼロにしなければなりません。こうした数値も、真鍋氏らの研究成果がもとになっているのです。

 真鍋氏は、かつて、米国で研究に取り組んでいた頃、気候変動モデルをつくる過程で、知的好奇心から、CO2などの数値の変化が気温にどう影響するかを調べられ、それが、後に、CO2削減など社会の議論の土台となったそうです。米国での研究に集中できる体制を評価し、「アメリカは世界中からバックグラウンドが違う人が集まり、刺激し合い、ディスカッションして次の進歩が生まれる」と力説、研究で一番大切なのは多様性と述べられ、「異なった環境を自分に与えるということは、若者や学生に限らず、中高年や先生方にも必要です」とおっしゃっています。

 ノーベル賞を設けたアルフレッド・ノーベルは、人類に最大の恩恵をもたらす研究に賞を与えるよう求めています。時代とともに対象は変容するでしょうが、次世代を生きる生徒諸君が興味・関心を深め、新しい研究に挑戦するきっかけづくりが探究学習の原点と言えるのではないでしょうか。