校長ブログ

シチズン・サイエンス

2022.02.16 トレンド情報
2月16日

 コロナ禍において、市民が参加する「シチズン・サイエンス」が注目されています。歴史をひもとけば、科学者のレベルに達したシチズン・サイエンティストは、19世紀に欧米で大学などの整備が進むまでは研究を進める上で中心的存在として活躍し、天文学や生態学などに貢献してきました。例えば、16世紀、ポーランドでは、コペルニクスが「天動説」を覆し、地球が太陽の周りを回る「地動説」を提唱しています。フランスでは、ラボアジエが「化学反応の前後でモノの質量が変化しない法則」を発見して "近代化学の父" と称されています。

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 2010年代には、ネットやスマートフォン、SNSが普及し、市民が撮影した写真や動画が地球温暖化や生態系の変化などをとらえる研究に寄与しています。近年、シチズン・サイエンスの気運が高まってきた背景には、気候変動や感染症の流行など、政府や研究機関、大学だけでは難題が山積しているという状況があります。今回のコロナ禍も同様。例えば、コピー用紙を使った1円以下の即席マスク作り、クラスターの連鎖状況や地域別の感染者傾向についての分析公表、世界中のパソコンの力を結集して、スーパーコンピューターを上回る計算能力でウイルスを解析するプロジェクトなど、様々なところで 知恵を結集した取り組みがなされています。

 インターネットのデータセンター(北海道)は、新型コロナウイルスのたんぱく質を解析する計画に参加、サーバーを無償で動かし、ワクチンや治療薬の開発に協力しています。AI技術者や高度な解析技術を身につけたデータサイエンティストなど、約3万人のネットワークをもつSIGNATE(東京)は、自治体などが公表する患者データを集め、感染者の居住地や年代、性別、海外渡航歴などをAIなどで分析しやすい形に加工し、データベースとするとのこと。サイボーズはじめ多くの企業は、スタンフォード大学を中心に進められている新型コロナ特有のたんぱく質の構造を解析する「フォールディング@ホーム」というプロジェクトに参加しています。「コード・フォー・ジャパン」(一般社団法人)は、感染を調べる検査の実施数や陽性者の数、都の支援策などをまとめた対策サイトを立ち上げましたが、委託後の開発の速さやサイトの見やすさは自治体の対策などにも大きく貢献しています。

 コロナ禍で世界中の多くの企業の業績が悪化しています。しかし、このような危機に直面している今、求められるのは、国や社会、従業員などのステークホルダーに配慮する姿勢。アメリカではゼネラル・モーターズやフォード・モーター、電気自動車のテスラが人工呼吸器の増産に精力を傾け、イタリアでは高級ブランドのプラダが医療用防護服とマスクの生産を開始、フランスではLVMHモエヘネシー・ルイヴィトンが香水などの生産ラインを変更して消毒剤を作り始めました。

 こういった行動変容は、歴史の教訓から。危機克服には人類が一つになることが必須。小堀洋美氏(東京都市大学特別教授)は「科学の問題克服はプロの科学者だけでは担いきれない。過去15年間で情報機器を使う地球規模の市民科学が飛躍的に増えた」ことを指摘しています。いずれにせよ、"新しい生活様式" を構築していくには市民と科学者の協働が不可欠なのです。