校長ブログ

新しい生活様式に向けて

2022.02.24 トレンド情報
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 新型コロナウイルス感染拡大に伴い、"新しい生活様式"が求められる中、"With/After コロナ"といった言葉が目につくようになりました。これまで人類は多くのウイルスと戦いながらも豊かな文明を築いてきたわけですが、それはある意味、ウイルスとの共存だったとも言えるのです。

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 歴史をひもとくと、ヒトがこの世に誕生して以来、ウイルスは体内に侵入し、互いの遺伝子が一体化してきました。石野史敏氏(東京医科歯科大教授)は、約16千万年前、哺乳類の祖先にウイルスが感染したのがきっかけで胎盤ができたと述べられています。ウイルスがDNAに潜むのは「生物の免疫細胞の攻撃を避け、縄張りも作れる」からだそうです。レトロウイルスと呼ばれるウイルスは、感染した生物のDNAへ自らの遺伝情報を組み込み、内在性ウイルスになります。内在性ウイルスとは、生物の生殖細胞に入ったウイルスがDNAの一部となった塩基配列のことですが、ヒトゲノムの約8%にあたり、そのうち約1〜2% が生命活動に関わるとされています。

 ウイルスは、病原体の恐ろしさをもつ反面、その遺伝子がヒトに宿り、生命を育む胎盤や脳の働きを支え、人間の進化に役立っているという事実もあるのです。例えば、妊娠中の母親のお腹の中で、胎盤は栄養や酸素を胎児に届け、体内での成長に貢献してくれていますが、今川和彦氏(東海大教授)によれば、過去5000万年の間に10種類以上のウイルスが様々な動物のゲノムに入り、それぞれの胎盤ができたそうです。言い換えれば、胎盤のおかげで胎児の生存率が高まったのです。

 元々、ヒトの胎盤は母親と胎児の血管を隔てる組織が少なかったのですが、進化するプロセスで一部の祖先に3000万年前に感染したウイルスがシンシチン遺伝子を送り込み、細胞融合の力を発揮、胎盤の完成度を高めたとのこと。シンシチン遺伝子はウイルスの体となるタンパク質を作っていたようですが、哺乳類と一体化して役割を変え、父親の遺伝物質を引き継ぐ赤ちゃんを母親の免疫拒絶から守る役目を担うようになったと見られています。つまり、哺乳類は進化しつつ、ウイルスをうまく利用してきたわけです。哺乳類のように、進化の過程で遺伝子がウイルスから入った例は他に見つかってはいませんが、ウイルスと生物の共存関係は黙過できない事象なのです。