校長ブログ

AI時代の学問

2022.04.20 トレンド情報
4月20

 AIがあらゆる分野で活躍しています。例えば、天文学の分野では、かつて星空観測といえば、静止画として捉える方法が一般的でした。しかし、今や、大型望遠鏡に巨大なデジタルビデオカメラを取り付け、夜空を動画で撮影し、AIを駆使して、明るさが変わる星空や夜空を移動する天体を探し出すことが可能になりつつあります。

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 東京大学木曽観測所は、2019年、「トモエゴゼン」というビデオカメラを完成させました。平家物語に登場する巴御前(ともえごぜん)からネーミングしたというこの巨大特殊カメラは、ふつうの天体観測カメラと違い、満月1個にも満たない、夜空しか捉えられないようなレベルでの撮影が可能であり、オリオン座の約半分をカバー、満月84個分の範囲を視野に収めることができるそうです。

 撮影は動画であり、毎秒2回、電子シャッターを切り続け、瞬きするくらいの時間に起きる星の明るさの変化や天体が夜空を高速で動いている様子などを記録できるとのこと。量的には、1日に映画1万本分のデータが得られるため、AIを活用して動画をコンピューターに学習させ、研究者が活用できるシステム開発を進めているそうです。

 トモエゴゼンのターゲットと想定されたのが、重い星全体が吹き飛ぶと言われる「超新星爆発」、天体の衝突や合体、星の表面で起きる巨大爆発「スーパーフレア」、銀河中心に潜むブラックホールの活発化などであり、明るさが増す天体現象の解明に寄与することが期待されています。

 対照的に、急に暗さが増す天体現象も研究対象。夜空では遠くにある恒星の手前をその周りを回る惑星や太陽系の小惑星が横切ることがあり、その時、系外惑星や小惑星によって恒星が隠され、一時的に暗くなったり、姿を消したりするそうです。トモエゴゼンを通じて、星がどれほどの時間暗くなったのを調べることで、系外惑星や小惑星の存在を明らかにできる可能性が示唆されています。

 さらに、夜空を移動する天体現象の解明も研究対象となります。天体観測で地球の自転による星の日周運動に合わせて望遠鏡を動かすと、それと小惑星や彗星の動きが異なるため、動画で撮影すると星々の間を移動するように見えるのですが、その様子を調べることで軌道や特徴を探究できる見込みです。

 トモエゴゼンが生み出す動画は宇宙の様々な事象を解明するビッグデータとなります。ポイントは、その中からいかに探究すべき課題を発見するかということ。研究者たちの課題発見力とAIを用いた課題解決力を学ぶことは背景知識をつけるだけでなく、日頃の学習姿勢の参考になるはずです。