校長ブログ

群知能

2022.06.23 トレンド情報
6月23

「群知能」という言葉があります。これは、個体や細胞が集団を形成し、知的な行動を見せること、つまり、個が集団の中でもたらす協調的な振る舞いと言い換えることもできます。個の力には限界がありますが、全体で協調して、知恵を出し合って物事を進めることによって、そのパワーが何倍、何十倍にもなるといった例は誰もが経験したことでしょう。今、この不思議な力を科学者が解明し、群知能の発想をAIやロボットの開発に活かそうとしているのです。

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 アリは1匹だけではエサを効率よく巣に運べませんが、他のアリが地面にまいた化学物質をたどることによって正確にエサを運ぶことができます。つまり、集合体からできた""が群知能の担い手を演じるというわけです。東京大学の土畑重人准教授らの研究では、アリの動きをプログラムしたロボットにエサに見立てた場所と巣に見立てた場所を往復させ、その間にフェロモンの代わりにアルコールを落とし、他のロボットにエサまでの道順を知らせ、アリがエサを巣に持ち帰る様子を再現しています。結果、巣に戻るロボットに進路を譲るという動作が表れたとのこと。

 全体を構成する単純な部分の協調から生まれた群知能という集合体全体の効率を高めるルールが生まれた背景を、アリゾナ州立大学にいた水元惟暁氏や城西大学大石化石ギャラリーの宮田真也学芸員らはアメリカで約5千万年前の地層から見つかった小魚の群れの化石から突き止めています。 

 水元氏によれば、大きな魚の餌食になりやすい小魚は、群れを作ることによって敵を混乱させ、自分が食べられるリスクを下げる特性があり、それが生き残りに繋がったとのこと。まさに「適者生存」です。また、原始的な魚にも「衝突回避と接近という行動ルール」があったそうです。これは部分が全体に取り込まれるのを避け、孤立もしないことを意味するものであり、段々、群れ全体に広がり、知能が出現します。

 慶応義塾大学の栗原聡教授は、群知能を活かす試みとして、信号機にAIを搭載し、自動車の数をカメラやレーダーで捉え、隣接する信号機と協調して渋滞を減らすなどの研究開発を進めておられます。すでに企業や他大学と連携し、静岡県の二十数カ所の交差点での実験が予定されています。

 ネットやSNSの普及に伴う群知能の悪用対策も含めて、群知能型のシステムをどのように取り入れていくか注目しておきたいと思います。