校長ブログ

SF作家アシモフから学ぶ

2022.07.15 トレンド情報
7月15日

 アイザック・アシモフ(19201992、生化学者、ボストン大学元教授)というSF作家について、イギリスの「ネイチャー」誌は、生誕100年の際、「アートとサイエンスの間にある、見せかけの境界を破壊した」と評しました。アシモフは、ロバート・A・ハインライン、アーサー・C・クラークと並ぶ 20世紀中頃のSF3大作家。宇宙ベンチャーのスペースX社(米)の共同設立者であり、CEOであるイーロン・マスク氏の火星移住計画はアシモフの読者体験によるものと言われるくらいです。

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 アシモフの作品は「ファウンデーション(銀河帝国の興亡)」という銀河系の未来に関するものと「ロボット3原則」に代表されるロボットに関するものの2つの流れがあります。

「ファウンデーション」はイギリスの歴史家ギボンの「ローマ帝国衰亡史」に着想を得たと言われており、スター・ウォーズやスタートレックといったSF映画にも影響を与えたようです。テーマは、かつて繁栄した帝国が衰亡し、混乱の時期を迎えても文明をいかに再興するかというもの。一方、ロボットものの作品は「ロボットは人間に危害を与えてはならない。また、その危険を見過ごすことで、人間に危害を及ぼしてはならない」という原則(1942年発表の短編で初めて登場)の下、ストーリーが展開されます。

 基本的なプロットは人の役に立ち、共生できるロボットをいかに作り出すかということ。この問いは、説明責任の果たせるAIをどう作るかという今日的な問題にも直結します。元来、ロボットという言葉は、チェコの作家カレル・チャペックによる造語ですが、アシモフはロボットが人類の脅威として描かれていたことに不満を抱き、ロボットを人に献身的な友として創造することを望んだようです。

 ロボティクスはアシモフの造語ですが、日本では「ロボット工学」と訳されています。作品中の主体は常にロボットにあり、ロボットが守らなくてはならない倫理が重点的に描かれています。しかし、裏返して言えば、ロボットを作るのは人間であり、主体はロボットというよりむしろ人間です。「ネイチャー」誌には、アシモフは晩年、「社会が英知を結集するより、科学が知識を集めるスピードが速い」と感じていたと書かれています。アシモフが現在、生きていれば、サイバー空間を知り、パンデミックで分断された社会をどのようなストーリーで描くか聞いてみたいと思うのは私だけではないと思います。

 日本政府と欧州委員会はAIに関する指針を発表し、人間中心の考え方を強調しています。時代は移り、AIをはじめとする科学技術の発展は日進月歩ですが、人の倫理は本質的な課題であり続けるのです。