校長ブログ

コロナ禍でのウイルス研究

2022.08.03 トレンド情報
8月3日

 「ネイチャー」誌において、スバンテ・ペーボ氏(マックス・プランク進化人類学研究所教授)らは、「現代人にネアンデルタール人の遺伝子が伝わり、新型コロナウイルス感染症で人工呼吸器を必要とするリスクを最大で3倍に高めている」というショッキングな研究成果を発表しました。
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 ペーボ氏らは、2010年、ネアンデルタール人の遺伝子の存在を証明しており、クロアチアの洞窟で発掘された約4万年以上前の骨からDNAを取り出し、人類のゲノムと照らし合わせました。今回は、約3千人の新型コロナの患者を調べ、ヒトゲノム(全遺伝情報)を収めた23本の染色体のうち、3番目の染色体にある遺伝子と呼吸不全の関係に着目。そして、この遺伝子がネアンデルタール人の標本にも存在したとし、ネアンデルタール人とホモ・サピエンスが同時代を過ごし、子どもを授かる「交雑」が起きたと指摘しています。

 一方、デービッド・エナード氏(アリゾナ大学博士)は、「ネアンデルタール人から受け継いだ152個の遺伝子がC型肝炎ウイルスのようなウイルスに対する免疫力を高めている手掛かりをつかんだ」と述べられています。

 ネアンデルタール人は、40万~20万年前から進化し、アフリカから欧州や中東に進出したものの、10万年前に現れたホモ・サピエンスに先を越され、約4万年前に絶滅しました。人類がアフリカからユーラシア大陸へ勢力を広げ始めたのは約6万年前であり、ネアンデルタール人がそれ以前に欧州や西アジアへ定着したことがわかっています。その意味で、様々なウイルスがいる環境で生存した者の多くが、免疫力を高める遺伝子を育んでいた可能性は否定できません。熊本大学の研究チームは、人類やサルの祖先に感染した「HERV-K」というウイルスが人類に特別な遺伝子を授け、エイズウイルスの感染から人類を守ると考えています。 

 新型コロナウイルスは未曽有のパンデミックであり、社会経済に及ぼした負の影響は計り知れません。今のところ、ワクチンや治療薬が開発されるまでは、ソーシャル・ディスタンスをはじめとする対策を根気強く続け、ウイルスが勢力を失うのを待つしかありませんが、私たち一人ひとりが出来ることを確実に積み上げていきたいものです。