校長ブログ

読書について考える

2023.01.10 教科研究
1月10日

 高校生が選考委員となり、その年の直木賞候補作から1作を選ぶ「高校生直木賞」も9回目を迎えました。今回は逢坂冬馬の『同志少女よ、敵を撃て』が選ばれています。

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「高校生直木賞」は、フランスの高校生が一位を決める「高校生ゴンクール賞」がモデル。若者の読書に役立つ状況をつくるという作家エドモンド・シャルル・ルー(後の会長)の一言から誕生しました。34年の歴史をもち、最も権威のあるものの一つと称され、毎年、約2千人が参加しています。

「高校生直木賞」は参加者がすべての作品に目を通し、議論を重ねた上で1位を決めるというものであり、「高校生ゴンクール賞」と同じように、予選を経て、代表者1人が全国大会で意見を戦わせ、最終的に受賞作を決定する流れです。実行委員会代表を務める伊藤氏貴氏(明治大学教授)は、予選で意見は割れるものの、この取り組みが生徒の成長を促していることを指摘しています。

 高校生直木賞の場合、同じ作品を読むというところからスタートしますが、議論を有利に進めるためには作品をより深く読み込んでおかなければなりません。当然、熟読を通じて作品に共感できる者もいればできない者もいるはずです。しかし、たとえ、共感できなくても登場人物の発言や行動原理の根底にあるものを論理的に読み解くことで説得力のある議論が可能になるのです。また、議論の際、そこで出会う人を理解しようとする姿勢があって発言するからこそ、周囲を説得することができるのです。

 自分の好きな本を紹介しあい、1位を決めるビブリオバトルとはここが違います。同じ内容のものを読んで議論を重ね、そのなかで自分の考えが少しずつ変化するのはむしろ進歩や成長といえます。ディベートのように、自分の意見が否定されるものとも違い、ポジティブな討論であるところがポイントです。これらの活動の中には、「読む」「聞く」「話す」が含まれており、この後、感想文を「書く」ことを加えれば4技能すべてをカバーすることになり、言語学習にも相乗効果を及ぼします。

 これまでは文学作品を鑑賞用の素材として扱ってきた側面があったことは否めませんが、文学を深く鑑賞する過程でも論理的思考力を養うことはできるのです。若者の読書離れがいわれて久しく経ちます。高校の新学習指導要領においては、「論理国語」と「文学国語」が分割されました。時代流れの中で様々な変容がありますが、文学作品を通じて、上記のようなスキルを養うこともまた教育の一環なのです。