校長ブログ

海外における日本文学

2023.02.14 教科研究
2月14日

 海外における日本文学と言えば、村上春樹さんが想起されますが、近年、数々の文学賞を受賞された「Wヨーコ」こと、多和田葉子さんや小川洋子さんを筆頭に、女性作家の国際的な評価が高く、翻訳出版が増えています。

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 ドイツ在住の多和田さんは、「献灯使」という小説の中で大災厄後に鎖国した日本を描き、全米図書賞(翻訳文学部門、2018)を受賞、昨年は「地球にちりばめられて」がノーベル文学賞候補と評されました。まさにグローバルな作家ですが、ご自身は「翻訳は作品に国境を越える翼を与えてくれる」とおっしゃっています。

 国際交流基金の調査によると、女性作家の活躍は目覚ましく、1950年以降の翻訳は2000年頃まで12割、2018年には3割、202021年は45割のペースで伸びているそうです。例えば、吉本ばななさんの「キッチン」は、1988年から約40カ国・地域で翻訳されています。2000年以降はWヨーコや宮部みゆきさん、川上弘美さんなどが有名です。

 翻訳家の鴻巣友季子さんは、「Women in Translation」という啓蒙活動(2013)などが欧州で始まり、多様性に富んだ作品が取り上げられたことが機運の高まりにつながったと指摘されています。共感を呼ぶテーマとしては、ディストピア(反理想郷)やフェミニズムが代表格。最近では、2019年に小川洋子さんの「密やかな結晶」が英訳され、全米図書賞(翻訳文学部門)や英ブッカー国際賞の候補になり、川上未映子さんの「ヘヴン」もブッカー国際賞の候補になっています。

 翻訳作品は全体の5割を超し、人気があるのは現代作家、読者層は米欧だけではなく、アジアにも拡がっています。戦後生まれの作家の割合は欧州と米国では5割前後ですが、アジアでは7割を超えるとのこと。加藤嘉一氏(楽天証券経済研究所)によれば、中国では小説や映像への関心が高く、伊坂幸太郎さんや東野圭吾さんらエンタメ系作家、韓国や台湾では宮部みゆきさん、タイでは赤川次郎さんの翻訳が多いそうです。

 翻訳は時間と労力をかけ、原文を正しく解釈し、表現する仕事ですが、そのお陰で多文化理解が可能になるのです。日本文学が世界中にさらに認知されていくためには、翻訳者の養成に加え、海外でのプロモーションを支援する仕組みを整えていくことも不可欠であることは言うまでもないことです。