校長ブログ

古典から科学の本質を学ぶ

2023.04.03 教科研究
4月3日

 素粒子物理学を専門とする大栗博司氏(カリフォルニア工科大学教授、東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構長)は、小学校時代、毎日のように、学校帰りに書店に立ち寄り、そこでの体験が本を読むことの面白さにつながったと述べられています。

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 最初に熱中したのが科学マンガ。シリーズを購入して内容を覚えてしまうほど何度も読んだそうです。続いて伝記。ニュートンやキュリー夫人などの伝記も読まれたとか...。特に、湯川秀樹が真夜中、布団の中で中間子を思いつき、それがノーベル賞につながったことや思考する力が自然界の真実にたどり着けることに感銘を受けたと言われています。

 小学校では高学年になると、文庫や新書を読むようになり、徐々に、高校生向けの参考書に。そして、ブラウズ、つまり、本をパラパラとめくりながら読む斜め読みを身につけ、『平家物語』や『おくのほそ道』など、古典に向かい、松尾芭蕉が提唱した「不易流行」に科学探究の本質があると考えるようになられます。

 高校生の時に読んだ『科学と方法』が科学者としての指針。物理学は、自然界の法則を発見し、その謎を解くために現状を把握、さらなる課題が何かを見極めなければならない学問です。小栗氏は、問題を発見しても、価値のあるものにつなげるためには失敗を繰り返し、粘り強く考え続ける力と言葉の力が不可欠とされています。

 『リンカーン演説集』についても言及。リンカーンがユークリッドの『原論』を読み、立証の意味を学び、それが数学的なセンスにつながったとも...。また、自由と平等の原則を訴えたゲティズバーグの演説でのpropositionという単語を例にとり、通例は「信条」と訳されるものの、数学では論理的に判断した結果という意味で「命題」と意訳されているところにも着目されています。要は応用する力。学問は進歩するにつれて細分化が進み、普遍性な価値がある発見が新たなつながりを生み、インパクトを与えます。そのためには、文理融合、教科横断的な背景知識はいつの時代も必須なのです。