校長ブログ

ゲノム解析

2023.07.26 トレンド情報
7月26日

 ゲノム、つまり、全遺伝情報を解読して日本人のルーツを探究しようとする「ヤポネシアゲノム」プロジェクトが注目されています。調査・研究に充てた期間は5年。今回の結論としては、従来の縄文人から弥生人へ移行したという説が是認されるものの、弥生人のイメージは見直しが迫られています。

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 日本人のルーツに関する研究と言えば、人類学者・埴原和郎氏が唱えた「二重構造モデル」が定着しています。歴史的には、日本列島に住んだ人々が採集狩猟を通じて縄文文化を形成したのが約37千年前。そして、弥生時代に渡来した人々が九州に水田稲作を伝え、それが日本列島中央部に広がり縄文文化を形成、南北には縄文人の遺伝子のある人々が残ったという仮説になっています。

 プロジェクトリーダーである斎藤成也氏(国立遺伝学研究所特任教授)によると、現代人のゲノムを分析し、アイヌの人々、沖縄の人々、本州に住む人々を比較すると、アイヌとオキナワの人々には遺伝的に共通する点があること、そして、古代人ゲノムも対象に加えた今回の調査でも二重構造モデルが成立することが述べられています。

 しかし一方で、弥生時代に現代の日本人に近い集団ができあがったとする説については修正が必要なようです。篠田謙一氏(国立科学博物館館長)は、渡来してきた人が縄文系のゲノムをもっていたと仮定するなら、現代人は縄文人寄りになっていたはずであるが、実際は1213%であり、古墳時代にも大陸から多くの人々が渡来してきたと言及されています。

 また、藤尾慎一郎氏(国立歴史民俗博物館教授)は、弥生時代に現在の長崎県周辺にいた西北九州弥生人は縄文人直系と考えられていたものの、ゲノム分析では渡来系弥生人との混血が進んでいることを指摘されています。

 具体的には、愛知県にある朝日遺跡から出土した弥生前期後半の人骨の核ゲノムは渡来系だったことを例示されています。また、この地域では弥生初期を特徴付ける遠賀川系土器も発見されており、それを使っていたのが渡来系弥生人であることもゲノムで確認されています。さらに、渥美半島の伊川津貝塚からは縄文土器を継承する条痕文系土器が出土しており、人骨の核ゲノムは縄文人そのものであったとのこと。研究成果が日進月歩である事例です。