校長ブログ

ノーベル賞受賞者から学ぶ

2023.12.02 トレンド情報
12月2日

 新型コロナウイルスのワクチンにつながるメッセンジャーRNAmRNA)の研究で、ハンガリー出身のカタリン・カリコ氏がノーベル生理学・医学賞を受賞されました。コロナ以外の疾患の治療も見据えた創薬のさらなる発展が期待されています。

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 カリコ氏と交流を深めてきた位高啓史氏(東京医科歯科大学教授)は、新型コロナの収束が見えてきた段階での受賞が「ワクチンの貢献が世界で評価された証し」と評されています。知り合った頃、mRNA研究はマイナーな分野であったそうですが、カリコ氏が携わるビオンテック社(独)の研究室を訪れ、mRNAの可能性について語り合ったとのこと。ハンガリーでの研究が難しくなる中、困難を克服し、大きな成果につなげたカリコ氏に対し、最も感銘を受けるのが「勇気」と強調されています。

 鈴木勉氏(東京大学大学院教授)は、ワクチンを通じて、基礎研究の成果を実用化し、コロナから人類を救ったと言っても過言ではなく、今後、がんなどの治療薬としても応用が期待されていると述べられています。英国の研究によると、ワクチン誕生から1年間で約2,000万人の命を救ったとされています。多くの変異型が登場して感染拡大の恐れも危惧されましたが、ワクチンの効果は大きく、重症化率や致死率は低下、季節性インフルエンザと同じ扱いの5類になったのは記憶に新しいところです。

 mRNAは細胞の核の中にあるDNAから遺伝情報をコピーし、設計図通りのタンパク質を作らせる物質。1960年代に発見され、1980年代にやっと人工的に設計、合成する技術が開発され、医薬品としての開発がスタートしています。mRNAを使うワクチンは、アイデアの段階から約30年かけて実を結びます。

 mRNAは非常に不安定な物質であり、体内ですぐに分解してしまうこと、合成にコストがかかること、副作用があることなどから問題は山積していました。しかし、高校の時、博学の教師に巡り合い、科学者を志したカリコ氏は、好奇心を維持し、忍耐強く研究を進めます。東西冷戦の中、国立セゲド大学で生化学を学び、魚の脂を分析する研究をはじめ、油の膜にDNAを包んで哺乳類の細胞に送る実験に参加し、この時の経験がmRNA研究に活かされていきます。博士課程は「RNA研究室」で研究していたものの、ハンガリー全体の景気が後退し、資金が打ち切られ、研究室は解散することになります。

 家族とともに渡米、ペンシルベニア大に就職しますが、研究が評価されず、企業からの助成費も得られないなど、苦難の道は続きます。しかし、免疫の専門家・ドリュー・ワイスマン氏との共同研究が転機となり、mRNAを投与したときの免疫反応を抑えることに成功します。2018年にはファイザーとインフルエンザに対するmRNAワクチン開発で提携し、コロナ向けに最も早くmRNAワクチンの実用化させています。好奇心の維持とたゆまぬ努力の結晶が後に続く者への最高の手本と言えます。