校長ブログ

音楽教育と科学技術の融合

2024.03.09 EdTech教育
3月9日

 楽器を上手に演奏できるようになるには、子供の頃からよい指導者につき、練習を積み重ねることが大切と言われてきました。しかし、近年では、ロボットなどの最先端技術を使い、スキルアップをめざす取り組みが始まっています。

DSC08364.JPG

 ソニーコンピュータサイエンス研究所は、スポーツ医科学がアスリートの能力を高めることに貢献しているように、科学技術によって10代のピアニストを育成することを目途に、「ミュージック・エクセレンス・アカデミー」を作りました。すでに、アカデミーで学んだ生徒が内外のコンクールで優秀な成績を残しているそうです。

 ふつうのピアノ教室とは違い、アカデミーには高速度カメラがあり、鍵盤のセンサーが演奏を可視化します。また、指を動かすロボットも取り入れられています。演奏が可視化されれば、改善の仕方がわかり、練習の質を高めることができます。特製ピアノ(河合楽器製作所)は鍵盤の動きを記録し、鍵盤を押している時間の長短をグラフで明示するので、練習を重ねれば、粒のたった音を出せるようになります。

 高速度カメラは姿勢の改善も役立つとのこと。AIを活用すれば、関節の位置を推定し、ひじや肩の位置の変化や鍵盤のタッチの強弱などを確かめることができます。指を動かす練習用に、手に装着するタイプのロボットも開発されており、動作をプログラムしたロボットで練習すると、指の動かし方を自然に学べ、ロボットを外しても以前より速く指を動かせるようになるそうです。自分一人では難しいと感じる複雑な動作をロボットが伝え、身体と脳の能力を引き出すという画期的なレベルです。

 さらなる特色として、脳や身体の仕組みを学び、指使いや力の入れ方などのコツをつかみやすくしている点は特筆に値します。ピアニストは、練習のしすぎでけんしょう炎になったり、指が動かなくなるといったトラブルにも直面しますが、最新技術を駆使すれば、故障の予防にもつながる可能性があるというわけです。

 音楽教育と科学技術の融合という画期的な手法ですが、今後、生徒が成長していく過程で、どの段階で効果があるのか検証する必要性も指摘されています。神経科学などの発展に伴い、音楽と脳の関係を調べる研究が進められています。今や、音楽でパーキンソン病などの軽減を狙う音楽療法などにまで広がりを見せているようです。いずれにせよ、医学や心理学、工学など様々な分野が演奏家育成に寄与することは確実なのです。