校長ブログ

人工衛星1割の時代

2024.04.05 教科研究
4月5日

 地球に近い軌道を飛ぶ人工衛星が増加しているため、夜空の景色が変わりつつあるようです。打ち上げが進むと、日本付近で眺められる星の1割に及ぶとのこと。光害が深刻になり、天文学への影響を懸念する声が高まっています。

DSC09690.JPG

 サマンサ・ローラー氏(レジャイナ大学准教授)は、柱の海王星の先にある小天体を調査、太陽系の歴史を探究しようとしています。課題は、観測したい繊細な光を衛星がかき消してしまうこと。今、世界で運用中の衛星は約9千基あり、6割以上が通信用です。スペースX(米)は、この4年半で約5600基を打ち上げ、世界の230万人以上にブロードバンド通信を提供しています。

 パロマー天文台(米)の観測では、1スペースXの通信衛星が原因とみられる光跡が増え、5301本が見つかっています。プシェメク・ムロツ博士(ワルシャワ大学)は、薄明時の写真の半分以上が影響を受けている可能性を示唆しています。各国の主要事業者であわせて65千基の計画をもとにしたローラー准教授らによれば、緯度3040度の地域で夏至や春分・秋分の朝夕に明るく見える星の約1割を占めるまでになるそうです。そうすると、「光害」は拡大していく公算が大きくなります。

 国際電気通信連合(ITU)によると、2029年までの打ち上げ計画は170万基に上るとのこと。人工衛星は、既に生活に欠かせない重要なインフラであり、自動運転など、地上の通信技術の発展によってさらに依存度は高まるはずです。

 ビジネスと科学研究のバランスに向けて、国際天文学連合(IAU)は、人工衛星の明るさを一定以下にするよう求めており、日よけや反射の向きを制限するフィルムをとりつけるなどの対策を模索しています。しかし、衛星間通信がしにくくなったり、大気の抵抗で軌道から外れやすくなったりするなど、長期的な展望は開けていません。

 佐野智氏(国際社会経済研究所)は、低軌道の運用ルール整備を訴え、環境問題と同様、先進国が無秩序に打ち上げ、それに後発国も続くことを懸念されています。宇宙が身近になってきた時代、内外の産官学協働を改めて感じさせてくれる事例です。