校長ブログ

味覚遺伝子

2024.05.04 教科研究
5月4日

 ペットフードを手がけるマース(米)の研究所(2023)によれば、ネコがマグロを好きな理由を解明したとのこと。厳密に言えば、ネコの舌のうま味を感知するセンサーが、マグロやカツオ節に豊富なうま味成分のイノシン酸に強く反応することを発見したのです。

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 ヒトはあらゆる食材を味わうことができるという意味で、最も食通な生き物と言えます。しかし、最新の研究では、うま味や甘味を感じる味覚遺伝子をヒトよりも多く持つ動物がいるということがわかってきたのです。

 味にはうま味、甘味、苦味、酸味、塩味の5つの基本味があり、それぞれにセンサーがあります。脊椎動物は口の中の味覚のセンサーで味を感知します。美味しいと感じるうま味と甘味のセンサーは類似しており、T1Rというグループの遺伝子から作られるそうです。これまで脊椎動物のT1R遺伝子は3種類と考えられていましたが、近畿大学や明治大学などの研究チームが新たな結果を発表しました。

 西原秀典氏(近畿大准教授)らが、はちゅう類や両生類、魚類など、脊椎動物33種のDNAを分析したところ、T1R遺伝子は11種類あることがわかり、さらに、5種類を発見、既知のT1R5種類に分かれることも明らかにしました。トカゲやウーパールーパー、古代魚のポリプテルス、軟骨魚のゾウギンザメなどは、ヒトより多くの遺伝子をもっているだけでなく、ヒトにはない遺伝子があることがわかっています。戸田安香氏(明治大学特任講師)らの実験では、ポリプテルスで新たに見つかったセンサーがアミノ酸のバリンやロイシンを感知することも分かりました。これは、バリンなどをヒトの味覚は苦く感じますが、ポリプテルスはおいしいと感じるそうです。T1R遺伝子が多い動物はおいしいと感じるものがヒトより多いのかもしれないということを意味します。

 歴史的には、約6億~5億年前、脊椎動物の祖先で5種類の遺伝子が出現、陸上脊椎動物と硬骨魚類の祖先で9種類に増えた後、次第に減っていったと考えられています。うま味と甘味のセンサーの機能は進化の中で変容していくようです。新たに見つかった味覚のT1R遺伝子には、何に反応するセンサーのものか機能が不明なものも多く、味覚と嗅覚の進化の関係もよく分かっていない模様。研究成果が待たれるところです。