校長ブログ

分厚い教科書

2025.05.05 教科研究

5月5日

 小・中・高で使われる教科書がますます分厚くなっています。小学校では過去20年間でページ数が約3倍、中学校では約2倍に増加しているとのこと。これは「脱ゆとり教育」以降、学習内容が拡充されてきたことが大きな要因ですが、同時に、学習指導要領が掲げる「主体的・対話的で深い学び」を指導する教員の育成が十分でないという課題も浮き彫りになっています。

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 教科書の分量が多く、授業内で消化しきれないという声は確かにあります。タブレット端末を活用し、板書を減らすなどの工夫をしても、基礎事項を教えるだけで精一杯であり、発展的な学習にまで手が回らない状況が続いています。

 文科省によると、小学校の教科書のページ数は2002年度に比べて2.7倍、中学校では1.8倍に増加しているとのこと。高校も同様の傾向が見られます。特に、2011年以降、この傾向が顕著に。加えて、学習範囲が広がる中、教科書には思考を促すヒントや解説、発展的な問題が盛り込まれ、厚みを増しているのが現状です。

 授業時間も増加しています。小学校6年間の標準授業時数は、ゆとり教育時代(20022010)の5,367コマから、2020年度には5,785コマに増えました。2024年度の調査では、小589%、中284%の公立が、標準授業時数を超えて授業を行っているとのこと。これに伴い、教員の授業準備時間も増大。さらに、不登校児童生徒への対応など授業以外の業務負担も重なり、教育現場の負担は限界に近づいています。

 教える側のポイントとして、どこが大切なのかを見極めることが大切であることは言うまでもありませんが、ついすべてを教えこんでしまいがちです。学習指導要領がめざすものは、自ら問いを立て、考え、試行錯誤しながら理解を深める探究のこと。しかし、教科書の内容が増え、授業時間が限られる中では、学びが受動的にならざるを得ません。結果として、単なる知識詰め込み型へと逆行してしまいがちという皮肉な状況が生まれているのです。

 日本の子どもたちの主体性の低さは国際調査でも指摘されています。こども家庭庁の調査(2023)では、「うまくいくかわからないことに取り組める」と答えた日本の子どもは、米国やフランス、ドイツと比べて半分以下。「自分の考えを伝えられる」と答えた割合も欧米諸国と比較すると低いままです。

 海外では異なるアプローチをとる国もあります。例えば、シンガポールは2005年からTeach Less, Learn More(少なく教えて、多く学ぶ)という教育政策を実施。知識の暗記に頼らず、自ら学びを深める授業づくりを推進しています。教員には児童・生徒の興味・関心を引き出すための授業研究の時間が確保され、結果として教員の質も向上。生徒の自律性も高まりました。シンガポールはOECDの学習到達度調査(PISA)でトップクラスの成績を維持しつつ、主体的な学びを促進する仕組みを整えています。

 一方、日本のPISAの成績は2022年調査で、科学的応用力2位、数学的応用力5位と上位を維持しています。しかし、知識を実社会で応用する力はまだ十分とは言えません。

 教科書のページ数が増える中、その内容には「探究の方法」を手取り足取り解説する記述も散見されます。今、求められるのは知識の詰め込みではなく、学び方を学ぶことに他なりません。学習指導要領が求める主体的な学びを実現するためにも、教科書のあり方や授業の進め方を今一度見つめ直す時期にきているのではないでしょうか?