校長ブログ
少子化の背景
2025.05.06
トレンド情報
5月6日
少子高齢化は、日本社会が抱える重要な課題の一つ。あちらこちらで少子化対策が議論され、若年層の経済状況の悪化が少子化の原因という主張が繰り返されているように思います。しかし、経済的な要因だけが出生率低下の原因なのでしょうか。円城寺次郎記念賞受賞者論文を執筆された近藤絢子氏(東京大学教授)が適格に分析されています。
就職氷河期世代の経済状況が悪化したため、少子化が進んだという見方は根強くあるのは事実。バブル崩壊後の雇用環境の悪化により、非正規雇用が増え、若年層の所得が減少したことが出生率低下につながったという考え方です。特に、1970年代前半生まれの第二次ベビーブーマー世代が出産適齢期を迎えた2000年代に第三次ベビーブームが起こらなかったことが、その証拠とされています。
しかし、少子化の流れは就職氷河期世代が生まれる以前の1970年代からすでに始まっていました。女性の社会進出が進み、結婚・出産による機会費用が増大したことが、少子化の主な要因とされてきたのです。バブル期であった1990年代も出生率は下がり続けており、経済状況と出生率の関係は単純ではないことがわかります。
興味深いことに、最も厳しい雇用状況にあった1980年代前半生まれの世代では、出生率が下げ止まっています。この背景には、育児休業制度の拡充や保育施設の整備、社会的な価値観の変化など、出産後も働き続けやすい環境が整ってきたことがあると考えられます。
また、出産後の就業継続率も大きく変化しました。2000年代に入ると、第一子出産後も仕事を続ける女性が増え、2015~2019年にはその割合が54%に達しました。かつては高学歴女性ほど子どもを持たないと言われていましたが、今ではむしろ、安定した仕事に就いている女性の方が結婚・出産しやすくなっています。
さらに、高度生殖医療の普及も影響を与えている可能性があります。不妊治療への公的支援が拡充され、30代後半での出産が増加していることが統計からも読み取れます。
最近の出生率の低下を考えると、単に雇用の安定=少子化対策という発想では十分ではないことがわかります。近年、若年層の実質賃金は上昇し、保育所の受け入れ余力も増えています。それにもかかわらず、出生率は低下し続けているのです。
新型コロナウイルスの影響で、若年層の出会いの機会が減少したことや、妊娠・出産に対する医療不安が影響した可能性もあります。しかし、出生率の低下はコロナ禍以前から始まっており、行動制限がなくなった今も回復の兆しは見られません。
都市部の住宅価格の高騰、過熱する教育投資、高齢化による将来不安など、少子化を加速させる要因は複数考えられます。経済的な安定が少子化対策につながるという固定観念にとらわれず、様々な角度から現状を分析する必要があるのではないでしょうか?未来を担う子どもたちのために、社会全体でどのような環境を整えていくべきか、引き続き考えていきたいと思います。