校長ブログ
数学のノーベル賞
2025.05.24
教科研究
5月24日
柏原正樹氏(京都大学特定教授)が、世界的に権威のあるアーベル賞を受賞されることになりました。アーベル賞は「数学のノーベル賞」とも呼ばれ、ノルウェー政府が2003年に創設したもの。受賞者には750万ノルウェークローネ(約1億円)が授与されます。受賞理由は、数学の異なる分野をつなぐ「D加群」(ディーかぐん)という理論を確立し、数学界に新たなツールと視点を提供したことだそうです。
柏原氏の研究は、代数学と解析学という、別々に発展してきた分野をつなぎ合わせた代数解析学という新しい分野の確立に貢献したこと。なかでも長年、難題とされてきた「リーマン・ヒルベルト対応」という問題を、独自のD加群理論で解決に導いたことは、国際的にも高く評価されています。
ノルウェー科学文学アカデミーは、「橋を架け、ツールを創り出した真の数学的先見者」と称賛しています。数学の道に進むきっかけとなったのが小学生のときに出会ったつるかめ算。頭と足の合計から、鶴と亀の数を求めるというこの問題に、方程式で答えを導けることに感動し、数学への興味が芽生えたそうです。
東京大学に進学後、世界的数学者である故・佐藤幹夫氏の講義との出会いが、研究者としての進路を決定づけます。佐藤氏のもとで代数解析学を学び、大学院修士課程でD加群に関する論文を完成。最初は日本語での発表だったにもかかわらず、世界の数学者たちの注目を集めたとのこと。東京大学の中島啓教授(国際数学連合総裁)も、柏原氏について、何十年にもわたり、数学の第一線で精力的に活躍してきた方と称えています。
現代数学はかなり進んでおり、それぞれの分野が独自に発展する傾向があります。しかし、柏原氏の研究は、分野を超えた橋渡しの役割を果たし、多くの数学者がその理論や手法を応用しています。また、共同研究にも積極的に取り組み、数学の世界における「対話と協働」の姿勢を体現されてきました。
若い研究者たちに対しては、小さなことであっても、新しいものをつくることが大切と述べられています。この言葉は、数学に限らず、すべての学びに通じるメッセージと言えます。日々の学びの中で、小さな発見や問いを大切にし、自分だけの視点で物事を深めていくこと。それこそが、未来を切り拓く原動力になるのです。