校長ブログ

進化する学びの場

2025.05.28 トレンド情報

5月28日

 新学期になると、教室の中にも様々な変化が生まれます。今回は学びの空間づくりについて。最近では、オフィス家具メーカーが学校の教室改装に参入しています。特に、首都圏では、可動式の椅子や机、全面のホワイトボードを導入して予算をかけて部屋を改装する学校が増えているとか。学校では教室の仕様が学習や健康増進に影響を与えます。デジタル教育は着手したばかりでノウハウが少なく、工夫の余地が大きいのです。

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 例えば、オフィス家具大手の内田洋行は、企業向けオフィス空間の設計で培ったノウハウを活かし、学校の教室をデジタル教育に対応した空間に変える取り組みを進めています。実際、千葉市の小中学校169教室を、インターネットイニシアティブ(IIJ)と連携して改装しました。今後、全国1000校規模にまでその数を拡大する計画とのことです。

 東京都江戸川区の葛西小・中学校には、まるで近未来のようなフューチャークラスルームがあります。大きなスクリーンが教室の3面に配置され、天井にはプロジェクターや小型カメラが設置。登壇する生徒や教材がリアルタイムで大画面に映し出されます。授業の内容も一新され、例えば、理科の授業では、地層の写真が実物大で投映されるなど、視覚的な理解が深まる工夫が施されています。黒板と教科書中心だった教室とは、まったく違う風景が広がっているのです。

 このような教室は、単なる空間のリニューアルではありません。そこには、GIGAスクール構想の進展に伴うタブレット教育との連携、そして教員やICT支援員による運用支援が一体となって初めて実現する、新たな学びの場があるのです。

 改装によって注目されているのは、パソコン教室の活用方法。1人1台のタブレットが配布される中、固定型のパソコン教室は次第に使われなくなってきました。その空間を柔軟な学びに活用しようと、可動式の机や椅子、全面ホワイトボードといった設備に改装する学校も増えているのです。

 空間づくりは、子どもたちの発言や関わり方にも変化をもたらします。東京学芸大学附属竹早中学校では、人工芝を敷いたパソコン教室を整備しています。

 イトーキという企業は、静岡聖光学院でメタバースを活用した仮想空間での授業実験を行いました。生徒がアバターとして参加し、研究発表や国際交流を体験。通常のウェブ会議よりも発言や対話の量が増えたとの調査結果もあり、新たな学びの可能性が広がっています。

 研究会では「ミニ四駆でよく使われるタイヤの比較」といったテーマを決めて仮想空間上で作成された車のオブジェクトを観察したり、動かしたりしています。国際交流は通常のウェブ会議と比較し、メタバース技術を使った方が参加者の発言時間や会話数が増えたそうです。

 背景には、企業がオフィスづくりで得た知見があります。社員のストレス軽減や集中力向上のために設計された空間は、学びの場でも応用できるのです。例えば、あるオフィスではソファ席を利用した社員のストレスが軽減され、集中ブースでは特定の社員が長時間利用する傾向が明らかになりました。企業は、こうした実証データを基に学校空間の運用支援にも乗り出しています。

 今、学校教育は「教える場所」から「学びを創り出す場所」へと転換しようとしています。教室のあり方を見直し、子どもたちの創造性やコミュニケーション力を引き出すためには、空間設計という視点も欠かせません。