校長ブログ
アニメ聖地
2025.06.11
教科研究
6月11日
アニメ作品の舞台を訪ね歩く「聖地巡礼」が国内外のファンを惹きつけ、地域に新たな賑わいを生み出す現象として注目を集めています。これは、単なる一過性のブームではなく、地域再生や教育的資源としての可能性すら秘めた動きです。
例えば、西宮市は「涼宮ハルヒの憂鬱」の舞台として知られています。昨年、KADOKAWA子会社ドワンゴがニコニコ生放送で「バスガイドさんと西宮・神戸を巡る聖地巡礼ツアー」を実施。バスガイド付きで西宮市や神戸市を巡るオンラインツアーには、視聴者から反響があり、再生回数は5万回を超えたとか。
アニメツーリズム協会が発表する「訪れてみたい日本のアニメ聖地88」では、西宮市がほぼ毎年選出されていることからも、その人気ぶりがうかがえます。その他、京都府舞鶴市(艦隊これくしょん)、京田辺市(一休さん)、京都市(薄桜鬼)など、関西各地でアニメを軸にした観光資源が育ちつつあります。しかし、地域によっては温度差があります。2025年のデータでは、兵庫県と京都府の選定シェアがやや減少。いかに持続可能な形で地域に文化資源として根付かせていくかが問われているのです。
その中で、淡路市の「ニジゲンノモリ」は好例です。ここでは「NARUTO」「BORUTO」など忍者アニメのテーマエリアや、「ドラゴンクエスト」シリーズの世界観を再現したアトラクションが、ファンを惹きつけています。パソナグループによれば、これらの"コンテンツ力"こそが、来訪の動機になっているそうです。
これは、教育の場でも生徒の興味・関心を引き出す教材として、アニメやゲームなどのカルチャーを活用することが考えられます。例えば、英語や社会の授業でアニメの舞台になった地域を探究したり、物語の背景にある歴史や文化を調べたりすることで、学習に自発的な深まりが生まれます。
行政の積極的な関与も注目されています。長崎県では、2024年公開の映画「きみの色」のロケ地に選ばれるためにロケ誘致を進めてきました。実際、ドンドン坂や赤迫停留所など、県側が提案したロケ地が作品に登場。作品のために路面電車の図面まで提供したそうです。現在、長崎県は6作品で10件が選定され、アニメ聖地88における都道府県別のシェア伸び率では全国1位。これは、地道な努力の成果に他なりません。
政府もアニメ聖地巡礼による経済効果に注目しており、推計では訪日外国人による関連消費は年間4700億円、聖地巡礼者は年間310万人にのぼると見られています。これは、地域経済を支える大きな柱になる可能性を示しています。
アニメツーリズム協会の岡本健氏(近畿大学教授)は、自治体との連携があることで作品にリアリティと地域性が生まれると言及されています。一方で、人気が過熱し過ぎたことで選定から外された例(「君の名は。」や「スラムダンク」など)もあり、バランスと節度ある対応が求められることも忘れてはなりません。
このような動きを教育の現場からどう捉えるべきか。やはり、興味・関心のあるものを通して地域や社会とつながる経験を積ませることが不可欠です。アニメを入り口にして、自ら調べ、足を運び、考え、発信する----そのような学びのプロセスがまさに探究的アプローチにつながるのです。