校長ブログ

真の国際共修に向けて

2025.06.18 グローバル教育

6月18

 近年、日本に留学する若者が急増しています。一部の大学では、すでに多国籍の学生が集うキャンパスが実現しつつあります。授業が英語で行われ、ディスカッションも多言語で活発に展開される...。そんな光景が日本でも日常になりつつあるのです。治安のよさ、学問の自由、多文化共生理解など、日本の強みは少なくありません。米国や英国、カナダといった国が、受け入れを絞り始めたのも追い風となっています。

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 2050年、日本の18歳人口は現在より4割近く減少するという文科省の推計があります。その現実を前に、共に学び、共に未来を創る仲間としての留学生を迎える仕組みづくりが求められているのです。

 政府は2023年時点で約28万人である留学生数を、2033年までに40万人にまで増やす方針を掲げています。コロナ禍を乗り越え、再び増加に転じた留学生数は、今後ますます重要な存在となります。

 OECD加盟国の中で、日本の大学における学部段階の留学生比率は約3%。これは国際平均の5%を大きく下回っています。つまり、来日する留学生は増えても、高度な教育機関で学び、専門性を磨く層が少ないのです。

 こうした課題に対して、大学も変わり始めています。例えば、国立大学協会は、2040年までに国立大学における留学生比率を3割に高めるという将来像を提示しました。東京大学では、2027年に修士課程までの5年一貫教育を新設し、その半数を留学生とする計画だとか。早稲田大学も2032年までに全学生の2割に当たる1万人の留学生を受け入れる方針を掲げています。

 このような動きは、海外の若者たちにも響いているようです。例えば、インドネシアのジャカルタのある高校生は、 日本の理工系は学術的な評価が高いこと、さらに、欧米に比べて授業料が安価であることから日本の大学で生物学を学ぶことを目指しています。また、ベトナムの国立ハノイ大のある学生は、和食やアニメなどの日本文化にひかれ、日本学部で学び、将来は日本や日本企業で働くことを夢見ているとのこと。こうした若者たちの姿は、日本が世界からどう見られているかを物語っています。

 しかし、課題も山積しています。英語で行う質の高い授業を増やすには、教員のスキルアップが不可欠です。また、その授業に日本人学生が積極的に参加するには、英語力の底上げも必要になります。加えて、日本語教育の充実も求められます。留学生がキャンパスで孤立せず、日本人学生や地域住民と交流し、実りある留学生活を送るためには、日本語の習得が欠かせません。それを支える教職員の専門性と熱意も、ますます重要になります。

 上智大学の杉村美紀学長は、大学は英語の授業を整備し、留学生は日本語を学び、互いに歩み寄ることが大切と述べられています。一方的な配慮ではなく、双方が文化や価値観を理解し合い、尊重し合う姿勢がなければ、真の国際共修は実現しません。留学生を少子化対策の一手段として見るのではなく、共に持続可能な社会をつくる仲間として迎えることが必要です。その視点があれば、留学生の存在が地域社会に活気と新たな価値をもたらしてくれることは間違いありません。

 2050年、多くの留学生が日本の大学に集い、活発な議論と深い学びを交わす―。そんなキャンパスの姿が、もはや夢ではなく、すぐそこにある未来であることをしっかりと受け止めなければならないのです。