校長ブログ
新しい大学教育
2025.06.24
大学進学研究
6月24日
今、大学教育におけるうねりは、もはや"波"というより"地殻変動"の様相を呈しています。その象徴とも言えるのが、東京大学の「カレッジ・オブ・デザイン」とZEN大学。両者は性格も歴史もまるで異なりますが、未来の学びに対する問いと挑戦においては、共振しています。
2027年9月に新設を予定している東京大の「カレッジ・オブ・デザイン」は、修士号取得まで5年一貫教育という新たな枠組みです。授業はすべて英語。定員は1学年100人で、その半数は海外からの留学生だとか。学生は、既存10学部にまたがる知識を自由に横断し、自らが掲げた社会課題に対して、デザイン的にアプローチしていくとのこと。学びの中心はプロジェクトベースの実践とオフキャンパスでの体験。災害レジリエンスや食と栄養など、具体的な社会課題に向き合い、最終年にはインターン、起業、ボランティアなどの学外活動に集中するそうです。
一方で、ZEN大学の運営母体は、通信制高校「N高等学校」などを展開してきた角川ドワンゴ学園。その実績とノウハウを活かした日本初の本格的オンライン大学を標榜しています。4月に開学したばかりですが、すでに3380人の1期生を迎え入れています。開設科目は279、授業はほとんどオンデマンドで提供されています。学生には担任のような役割を果たすクラス・コーチや、履修相談・進捗管理を担うアカデミック・アドバイザーがつき、まさに"伴走型"の支援体制が敷かれています。
この両大学、理念も方式も異なりますが、共通点もあります。それは、自ら学びを設計し、現場に出て、プロジェクトを通して成長するという構造。学生は単なる"知識の受け手"ではなく、"社会の問題を解決する担い手"として育てられています。東京大で初の外国人学部長に就任する予定のマイルス・ペニントン教授が語ったパワフル・インディペンデント・ラーナー(強く自律した学習者)という言葉は、そのままZEN大学のビジョンにも重なります。
両大学とも、教育プログラムの最後に「キャップストーン」と呼ばれるプロジェクト成果の発表を置いています。生成AIの台頭により、今や論文を書くこと自体は容易になりました。だからこそ、学生が自らの手で課題に挑み、成果を言葉で伝えるプロセスが、何よりも価値を持つようになったのです。
ZEN大学の若山学長は「中世ヨーロッパの学生や学者は写本のある場所などを移動しながら学んだが、印刷術の発達で書物が普及し、情報が集積して大学の固定化が起きたと聞く。同じように大学の形態が変わる。それがZEN大だ」と述べられています。東大の太田邦史執行役・副学長も「(カレッジでは)専門分野中心に学問を教えていく形ではなく、学生の本質的な興味や社会課題の解決から学びを組み立てていってほしい」と言及されており、もはや大学の在り方自体が再定義されつつあるのです。
しかし、課題もあります。東京大のカレッジは、大学全体の定員約3000人に対して、わずか100人の枠。果たして、学内に閉じた"実験区"で終わらせず、全学的な変革につなげられるかが問われます。通信制であるZEN大学には、直接的な関わりを持たずに、10代の若者を本当に成長させられるのかという懐疑的な見方も存在します。2つの大学が卒業生を送り出すのは、ZEN大学で2029年、東大カレッジで2032年。その成果が明らかになるのは、さらにその先です。
高校教育も同様。大学がここまで変わるのであれば、高校の進路指導やキャリア教育も変化を迫られます。統計学やプログラミングを前提とする人文学の授業が当たり前になるなど、親世代とはまったく異なる学びが今の高校生を待っています。「大学に入る」から「大学で何を学ぶか」「何のために学ぶか」への問い直しが必要なのです。偏差値では測れない大学、答えのない問いに挑む学生。そんな時代に求められるのは、教育関係者全員のアップデートに他なりません。未来の教育は、もう始まっているのです。