校長ブログ
スポーツ格差
2025.06.25
トレンド情報
6月25日
グランドでボールを追いかける生徒たちの笑顔を見て、ふと、子供だった頃の風景を思い出しました。空き地には自然と子供たちが集まり、誰が言い出すでもなく野球が始まる。そんな風景は、もう今の社会にはほとんど残っていないかもしれません。
子供たちがスポーツに触れるためには、思いのほか「お金」が必要です。スポーツ観戦にしても、実際に競技を習うにしても、家庭の経済力がその可能性を大きく左右する時代になっています。三菱UFJリサーチ&コンサルティングの調査によれば、2024年のスポーツ観戦チケットの平均価格は4,527円。これは10年前と比べて約44%の上昇。3月に東京で行われた米大リーグの開幕戦では、最安の外野席でも5,500円、ネット裏では15万円。もはやスポーツ観戦は、気軽な娯楽ではないのです。
今、10代のスポーツ離れが加速しています。笹川スポーツ財団の調査によれば、2023年にスポーツを生観戦した12〜19歳の割合は30.5%。2011年から10ポイント以上の減少です。「観る」スポーツだけではありません。「する」スポーツにおいても、経済の壁が立ちはだかっています。こうした中で、明らかになってきたのが「スポーツ格差」という問題です。公益社団法人チャンス・フォー・チルドレンの調査によると、世帯年収300万円未満の子供の63.5%が、週に1度もスポーツ活動に参加していません。
筑波大学の清水紀宏教授は、経済的余裕のある家庭しかスポーツに投資できなくなっている現状を憂い、スポーツは本来、社会秩序や人間関係を学ぶ場であることを指摘しています。かつて「空き地の野球」は、経済的な格差を超えて子供たちが自然に関わり合う接点でした。しかし、今や空き地自体が存在しません。中学校のクラブ活動も、地域移行が進む中で民間事業者が担うようになると、さらに費用が増えることは想像に難くありません。
英国では、2024年パリ五輪の代表選手のうち33%が、わずか9%しかいない私立学校の出身者だというデータもあります。才能や努力ではなく、出発点での格差が、スポーツの世界にも大きな影を落としているという事実です。
教育に携わる者として思うのは、機会の保障こそが教育の本質だということです。スポーツは決して「贅沢品」ではありません。子供たちの健やかな成長に欠かせない、大切な体験の一つです。経済的理由によってその機会が奪われるとしたら、それは大人の責任です。本校では、クラブ活動やスポーツの機会が、できるだけ平等に提供されるよう努力を続けています。また、学校外での活動に対しても、経済的な理由で諦めざるを得ない生徒がいれば、何かしらの支援策が講じられないか、話し合いを進めています。
のび太やジャイアン、スネ夫が空き地で夢中になっていたあの野球。それは単なる遊びではなく、社会を学び、人とつながり、自分の限界に挑戦する「人生の授業」でした。今の子どもたちにも、そんな時間と空間を取り戻してあげたい―そう願わずにはいられません。