校長ブログ
物理・地球科学の研究
2025.06.28
教科研究
6月28日
日本はかつて様々な分野で欧米に学びました。科学技術の領域でも、彼らの背中を追いかけながら、少しずつ独自の道を歩んできました。そして、決して十分とはいえない環境の中でも、日本から世界を驚かせるような発見や理論が生みだされてきたのです。
まずは物理学の分野から。統計力学という分野において、久保亮五博士の名は世界中の教科書に記されています。彼が導いた「久保公式」は、1957年、日本物理学会の英文誌に発表されて以来、時代を越えて使われ続けています。
この論文は、日本物理学会誌で最も多く引用され、1万2000件以上もの引用があります。これほどまでに引用される理由としては、久保博士の教え子である谷村吉隆・京都大学教授は、物理だけでなく化学にも応用でき、シンプルで汎用性が高いとからと述べられています。
次に紹介したいのが近藤淳博士。彼が解き明かしたのは「電気抵抗の極小問題」と呼ばれる現象です。1930年代から知られていた、ある種の金属に磁性をもつ元素を微量加えると電気抵抗が上昇するという謎。通常の常識では説明がつかない現象でした。近藤博士は、電子のスピン(磁気的な性質)に着目し、解析を重ね、ついにその答えを導き出しました。これが「近藤効果」として知られるようになります。彼の名は「近藤問題」「近藤共鳴」「近藤雲」など、20以上の専門用語に刻まれ、量子コンピューターの研究でも欠かせぬものとなっています。
京都帝国大学の松山基範博士が1926年に発見した「地磁気の逆転現象」は、千葉県市原市の地層が「チバニアン」として国際的に認定された際、大きな注目を集めました。地球の磁場は不変と思われていましたが、松山博士は岩石の磁気測定から、過去に極が逆転していたことを突き止めました。彼の業績に敬意を表し、この時代は「松山逆磁極期」と名付けられました。こうした科学的な証拠が、チバニアンの国際認定につながったのです。
気象学の分野では、竜巻の強さを示す「Fスケール」がありますが、これは米国で活躍した日本生まれの気象学者、藤田哲也博士の名を冠したもの。彼はシカゴ大学で研究を重ね、竜巻の解析に革命をもたらしました。電子工学の分野では江崎玲於奈博士が開発した「エサキ・ダイオード」、化学の分野では「鈴木・宮浦カップリング反応」が世界に名を轟かせ、いずれもノーベル賞を受賞しています。
これらの偉業に共通しているのは、いずれも研究者自身がひたむきに問い続け、考え抜き、そして時には既存の枠を壊して新たな地平を切り開いたという点。誰も気づかなかったことに気づき、誰も試みなかった方法を試す。その勇気と粘りが、世界に届く成果となるのです。
生徒諸君には、自分の手で世界を変える可能性があることを改めて認識してほしいと思います。かつて久保博士、近藤博士、松山博士たちは、皆、ひとりの学徒でした。彼らは自らの信じる問いに向き合い続け、そして時代を越えて残る仕事を成し遂げたのです。