校長ブログ
東大、ハーバード留学生受け入れ
2025.06.30
大学進学研究
6月30日
東大が、ハーバード大学の留学生を一時的に受け入れる方針を表明するという非常に象徴的な動きがありました。
これは単なる制度上の対応にとどまりません。国境を越え、学びの継続を支えるという、大学の根本的なミッションを体現する強い意思の表れとも言えるものです。
背景には、米国の大学政策の急激な変化があります。とりわけハーバード大に留学生の受け入れ資格停止を通達したことは、衝撃的な出来事でした。日本人留学生を含む数千人が、突然学びの場を奪われかねない状況に直面しているのです。これに対し、東大が制度整備を急ぐという姿勢を示したことは、まさに日本の学術界がグローバルな公共財としての役割を果たそうという意識の現れだと感じられます。
東大はこれまでも、ウクライナからの避難学生・研究者の受け入れなど、困難な状況にある学び手たちに手を差し伸べてきました。今回の動きは、そうした経験と土台の上に築かれた、未来志向の対応であると言えるものです。
教育現場に立つ者の一人として、大学のこうした世界を見据えた対応に深く敬意を表するとともに、これを"対岸の火事"として見過ごすことはできません。むしろ今、高等教育の前段階を担う中高現場が何をなすべきか、その責任を問い直す契機として捉えています。
学びに国境はありません。逆境にあっても学びを止めぬ意志さえあれば、それを支える仕組みと人の手があってしかるべきです。例えば、本校が実践しているICTを活用した海外校との遠隔協働学習は、ある意味で国境を超えた学びの萌芽です。異なる文化、言語、そして価値観と触れ合う中で、生徒たちは自分の外側にある世界への感受性を育んでいきます。
また、東大が表明したDEI(多様性・公平性・包摂性)のさらなる推進についても、これは単なるスローガンではなく、日本の教育現場全体に対する問いかけです。「誰ひとり取り残さない」という言葉を、単なる理想で終わらせないために、日々、創意工夫が不可欠なのです。
今、日本のいくつかの大学が東大に続き、受け入れの具体的検討に入ったことも報じられています。京大、阪大、九大、東北大...いずれも世界に目を向けた高等教育機関として、意義深い動きです。文科省もこれを受け、全国の大学に支援策の検討を要請したとのこと。日本全体として学びを止めない体制づくりが加速しています。
これからの日本の教育に求められるのは、「知の港」としての機能。激動する世界の潮流の中で、航海を続ける若き探究者たちに、一時でも安全に停泊できる港を用意する--それが教育に携わる者の役目なのです。