校長ブログ
動物園から学ぶ組織改革
2025.07.12
カリキュラム・マネジメント
7月12日
千葉市動物公園にいるレッサーパンダの風太をご存じでしょうか?約20年前、後ろ足で立つ姿が話題となり、一躍"時の動物"となった風太も、今や21歳で国内最高齢です。冷風機の風が入る小屋でゆっくりと時間を過ごす姿には、思わず心が和みます。
これは単なる癒しの話ではありません。動物たちの高齢化は、全国の動物園が抱える深刻な課題の一つなのです。千葉市動物公園では、クラウドファンディングを活用して設備を整え、アニマルウェルフェア(動物福祉)に真正面から向き合っています。
この先頭に立っているのが、園長の鏑木一誠さん。元・東芝のエンジニアであり、前職はコンピューター事業部。高度成長期の中、営業鞄を抱えて中小企業を一軒一軒訪ねていたそうです。決して口が達者な方ではなかったと言われていますが、タイミングを見計らって、社長の前でパソコンを操作しながら丁寧に説明したとのこと。徐々に営業成績は伸び、やればできるという手応えを得たと言われています。
企業内では新規事業の立ち上げや事業再生にも携わり、50代でグループ会社の執行役員に。遠隔点検のためのITツール事業にも取り組まれました。その頃、千葉市動物公園では来園者減が課題となり、民間から園長を公募という異例の試みが始まります。
鏑木さんの心が動きます。地元・千葉は家族と何度も訪れた場所であり、行ってみようかとご家族に話すと背中を押されたとのこと。会社人生を全うする選択肢もあった中で、応募者442人の中から選ばれます。
着任して驚いたのが動物園の果たす役割の広さ。野生動物の保護、調査研究、環境教育...。娯楽施設であると同時に、社会的使命を担う場でもあり、これは一種の公教育と感じたと述べられています。
まず彼が行ったのは、組織の意義を明確にすること。つまり、我々は何のために存在しているのかを全職員が自分の言葉で語れるようになることです。これは、学校でいうところのスクール・アイデンティティの再定義に他なりません。
2020年には、アカデミア・アニマリウム(動物をめぐる学術の場)をコンセプトに掲げています。職員にも主体的な研究参加を促し、園内にはフラミンゴの繁殖や風太の給餌方法の検討など、多様な研究パネルが並ぶようになりました。
さらに、地域課題ともつなげた実践も印象的です。例えば、駆除されたイノシシの肉をライオンに与える「屠体給餌」。見た目への抵抗感はあったものの、自然本来の食事行動が見られるなど、職員の意識も変わったそうです。
2025年3月にリニューアルした動物科学館は、単なる展示にとどまらず、熱帯雨林と人間の暮らし、気候変動と生態系など、複雑な問いを来園者に投げかける場となっています。大学や企業とも連携し、イベントや研究発表も実施。大人も学べる動物園として注目を集めています。AIによる動物行動の観察など先端技術の活用にも取り組んでいます。会社員時代の経験を生かしながら、動物園の役割を実現しているのです。
この話から学ぶべきことは組織の根本を問い直すことからすべてが始まるという点。教育でも福祉でも、動物園でも変わりません。理念に立ち返り、現場の職員が自分の言葉でその意味を語れること。そこに、真の組織変革の萌芽があるのです。