校長ブログ

海外協力隊

2025.07.19 グローバル教育

7月19日

 JICA(国際協力機構)の海外協力隊についてご存じでしょうか?今年、60周年を迎えたそうです。29名から始まったこの取り組みは、これまでに約57000人もの日本人が世界74カ国で活動するまでに成長しているとのこと。

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 人と人とのつながりを大切にする開発協力のスピリッツには、単なる知識や技術の伝達にとどまらない、互いに学び合い、共に成長していく姿があります。

 今、派遣される海外協力隊員の多くは20代の若者。2024年の派遣合格者のうち6割が30歳未満で、その7割近くが女性です。若い女性たちが、自らの人生を切り拓くように世界に飛び出し、課題解決に果敢に挑戦していることは、日本の未来にとっても希望そのものです。

 ある女性は、大学卒業と同時に協力隊に参加し、アフリカ・ガボンで野菜の栽培を教える活動に従事しました。気候も文化も全く異なる地での生活と仕事は決して容易ではなかったはずですが、その経験を通じて大きく成長し、帰国後には地域の活性化に取り組む起業家として新たな一歩を踏み出しています。また、第二の人生として協力隊を選んだ方もいます。大手メーカーの技術者として活躍してきた方が、定年退職後にカンボジアの専門学校で機械工学を教える選択をされています。人生経験を次世代に還元するその姿は、まさに学びに終わりはないことを示してくれています。

 もちろん、海外での活動は順風満帆なことばかりではありません。文化も価値観も異なる中で、自分の思い通りにならないことも多いでしょう。しかし、日本の社会では得られない自分の判断が社会にどう影響するかを実感できる環境は、何物にも代えがたい経験です。それが若者たちの挑戦心を刺激し、自らの未来を創る力につながっているのです。

 コロナ禍では派遣人数が一時大きく減少しましたが、現在は年間1000人規模に回復しているとのこと。こうした時代の波に翻弄されながらも、協力隊の歩みは途絶えることなく続いています。海外協力隊員の期間は原則2年間。活動中の1462人の派遣先は74カ国に及びます。地域別にみると、中南米の437人やアフリカの418人が多く、東南アジアの210人がこれに続きます。語学力が不安だと思う方もいるかもしれませんが、応募には英検3級程度で十分とのこと。出発前の研修で必要な語学力や文化理解をしっかりと身につけることができます。大切なのは完璧なスキルではなく、伝えたい、分かち合いたいという気持ちです。

 学校教育の現場でも、このような実体験に基づく学び、世界とつながる教育が不可欠です。生成AIが進化する時代にこそ、自ら動き、感じ、考え、行動する力―いわゆる「生きる力」が重要なのです。

 本校でも、グローバル探究教育を通して、生徒たちが自らの可能性を広げる機会を大切にしています。しかし、それは必ずしも海外に行くことだけを意味しません。地域社会の課題に向き合う中でも、人との対話を通じて視野を広げ、思考を深めることは十分に可能です。素材はいくらでもあるのです。協力隊が示してくれるのは、自分の力が誰かの役に立つという実感が、人間の根源的な成長欲求を満たし、真の学びを生むということ。60年という節目を迎えた現在、協力隊のスピリッツを参考にしながら、生徒一人ひとりが世界とつながる力を持つ、そんな教育をこれからも目指していきたいと思います。