校長ブログ
英語教育を考える⑤ー理論の応用
2025.07.26
教科研究
7月26日
「英語教育を考える」の第5段は、様々な英文法理論と現場接続について、教職大学院で学ばれてきた若手の高校英語教員のY氏との対話の一コマから。
Y氏:本日は、今、関心をもっているいくつかの文法理論についてご教示いただきたく参りました。基礎的な知識はあるのですが、いわゆる「平井モデル」では、どのように授業に応用されるのか、ぜひお聞かせ願いたいと思いまして...。お忙しい中、恐縮ですが、どうかご指導くださいませ。
校長:こちらこそ。英語教育を深化させるには、理論と実践の接点を絶えず探ることが欠かせないと思うよ。学術的な知見をいかに教室に応用するか―それは我々教員の大きな挑戦だね。
Y氏:最近は用法基盤モデルが非常に参考になるのではないかと感じております。
校長:文法は「教わる」ものではなく、「使われる中で育つ」と捉える理論だね。例えば、授業の冒頭で "Would you like to~?" や "Can I~?" といった表現を繰り返す活動があるけど、これは用法基盤モデルに近いんじゃないかな。専門用語を用いなくても、既に多くの現場に浸透しているけどね。
Y氏:はい。教科書で文法項目として取り上げるより、実際の使用を通しての方が、ずっと定着するように思います。
校長:生徒たちは文法用語を知らなくても、経験の中から「この場面ではこの言い方」というパターンをつかんでいくよ。さらに先行研究を調べて、現場で応用できそうな点があれば、ぜひ挑戦してみてほしいな。
Y氏:ありがとうございます。先生に背中を押していただけると、モチベーションが上がります。ちなみに、アデル・ゴールドバーグの構文文法については、どうお考えですか?
校長:言語を「意味と形式のペア=構文」として捉える理論だね。文法を抽象的なルールではなく、意味ある表現として捉える点に特徴があるね。ネイティブが自然に使う「文の型」を学ぶことが、本質的な習得につながるという考え方だけど、具体例を挙げられるかな?
Y氏: "It takes 人+時間+to~" などが該当するかと。
校長:そうだね。文脈に合わせて「そのまま覚える」ことが推奨されているもの。重要なのは、型と意味のつながりを感じ取らせることであり、単に教え込むものではないね。
Y氏:私もそう思います。定義云々ではなく、普段「構文」と呼んでいるものに非常に近いですね。また、認知文法の視点も示唆に富んでいるように感じています。
校長:文法を人間の「意味づけの活動」から生まれたものと捉える理論だね。
Y氏:はい。冠詞の使い方にも、それが反映されると学びました。
校長:例えば、a+名詞 が「新情報」、the+名詞 が「既知情報」として使われるといった認知的枠組みのこと。この理解があると、文法の背後にある意味の構造が見えてくるんだ。授業では、「なぜその表現を選んだのか?」という問いかけが大切だね。
Y氏:なるほど...ありがとうございます。ダイナミック・システム理論についても、ぜひご教示いただけますでしょうか?
校長:よく調べているね。これは、文法習得が「非直線的」であるという考え方。つまり、言語習得は直線的なものではなく、一進一退を繰り返しながら、個別に進行するという立場をとるものだね。だから、生徒の誤用は「失敗」ではなく、「発達の兆し」と捉えるんだ。
Y氏:御校では、そのような誤用への対応について、どのような助言をされているんでしょうか?
校長:基本的には、文脈に即して「どう言えばもっと伝わるか?」を一緒に考えるよう助言しているよ。生徒自身が言葉への意識を高めていく、その過程を教師も共に楽しむことが大切だね。
Y氏:ありがとうございます。ところで、生成文法については、現場でやや距離を感じる先生もいらっしゃるように思うのですが...。
校長:それは自然な反応かもしれないよ。生成文法は理論的に非常に精緻で、教育現場にそのまま持ち込むにはやや難しい面があるね。ただ、「人間には言語を生み出す生得的な能力がある」という視点は、真理だと思うけど...。
Y氏:なるほど。生徒の言語能力を"引き出す"という考え方に通じるのですね。
校長:その通り。だから、生成文法のエッセンスを再構成して伝える、いわば「メタ文法」という発想も必要だよ。専門用語を避け、生徒が「なるほど、英語ってそうなってるのか」と腑に落ちるような比喩や説明が求められるね。
Y氏:どの理論にも共通しているのは、文法は使う中で、意味のある営みとして育つという哲学のように思えてきました。
校長:おっしゃる通り。目指すものは、文法を"点数のための知識"ではなく、生徒が他者とつながるための「道具」として育てていくこと。そのためには、理論と実践の間に橋を架けようとする姿勢が欠かせないね。
Y氏:本日は、多岐にわたるお話を本当にありがとうございました。たいへん勉強になりました。
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