校長ブログ

英語教育を考える⑦ートランスランゲージングⅡ

2025.07.31 教科研究

7月31日

 トランスランゲージング(Translanguaging)についてのY氏との対談からの続きです。

DSC00645.JPG

Y氏:トランスランゲージングを単なる指導技法ではなく、子どもの学ぶ意欲や思考力を引き出す教育観そのものとして捉えておられることがよくわかりました。実際の授業づくりでは、どのような助言を与えておられるのですか?

校長:基本的には「母語での深い思考」と「英語での表現」を段階的につなぐような授業デザインが不可欠と言っています。例えば、「伝統文化を世界に紹介する」というテーマなら最初の2時間ほどは、日本語だけで、生徒たちに問いを立てさせたり、身近な文化体験を語り合ったりします。

Y氏:いきなり英語で始めるのではなく、まず思考の土台を母語で固めるわけですね。

校長:ええ、そこを疎かにしてしまうと、どうしても表面的な英語の「作文」になってしまうんです。でも逆に、日本語で自分の原体験を掘り下げたり、仲間と議論したりする中で、自分の語りたい中身がはっきりしてくる。そうすると「これを英語で伝えたい」という意欲が自然に生まれてくる。ここが大事な転換点です。

Y氏:その後、どのように英語での表現に移行させるのですか?

校長:日本語で書いたメモやアイディアを、英語に変換していくプロセスを見える化したシートを作らせておくことが大切です。例えば、「中秋の名月を家族で眺めた記憶」など、日本語で詳細に書かれたものを、まずは一緒に英語に"翻案"していく。直訳ではなく、「英語圏の人に伝えるにはどの視点が必要か」を一緒に考えるんです。

Y氏:言葉の変換ではなく、視点の変換が起こっているのですね。

校長:そうです。生徒たちも、「英語が得意な生徒」だけでなく、「思考が深い生徒」や「語りたいことを持っている生徒」が表現の場を得るようになります。そして、最終的にはプレゼンテーションや動画作品として、しっかりアウトプットします。ここでは英語の精度ももちろん大切ですが、内容の切実さや、伝える気持ちの強さが、何より観客に響くんですね。

Y氏:それはまさに、学習指導要領で言うところの思考、判断、表現ですね。生徒たちの変化を見て、どんな手応えを感じておられますか?

校長:自分の言葉で語ることへの自信です。ある生徒が「自分は英語が苦手だから、発表は無理です」と言っていたのですが、日本語で自分の考えを話す中でクラスメイトに共感され、自信が芽生えていった。結果、「これだけは英語で言いたい」と、自分の言葉で発信してくれるようになったのです。そこには、文法の正しさよりもはるかに価値のある、教育的な瞬間があるのではないでしょうか?

Y氏:こうした取り組みは、学校全体のカリキュラムや教員の連携にも影響がありそうですね。

校長:教科横断が可能になります。国語科と英語科の共同で単元を設計したり、社会科と連動して「地域の歴史を英語で語る」といったことができるわけです。生徒にとっては「何語で学んでいるか」ではなく、「自分は何を伝えたいのか」が学びの軸になるのです。

Y氏:素晴らしい取り組みです。生徒が本当に伝えたいことを見つけ、それを言語を越えて表現していくファシリテーターとしての教師の姿に未来の教育のヒントがあると思います。校長のカリキュラム・マネジメントの一端を学ばせていただいたように思います。神戸山手グローバルのご発展、期待しております。

校長:ありがとうございます。