校長ブログ

英語教育を考える⑩ー生成AIとリスニング力

2025.08.09 教科研究

8月9日

 今回は生成AIとリスニング力についての対談から。

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S氏:今日はリスニング力をテーマにしたいと思います。最近、AIとの融合で英語の聞き取り力がどう進化しているのか、たいへん興味があるんです。

校長:ここ数年、リスニングという行為の本質を問い直す機会が増えています。単なる音の認識ではなく、意味構築、予測、そして背景知識とのつながり。これらがすべてが統合されて、はじめてリスニング力と呼べるものになるというのが、最近の研究結果です。

S氏:確かに、私たちの頃は繰り返し聞けば何とかなると教えられたものですが、今は違いますね。

校長:従来のボトムアップ式、つまり音を一音ずつ拾っていく練習だけでは、限界があることが明らかになってきました。注目されているのが、トップダウンとボトムアップの統合的な理解です。簡単にいえば、背景を知って、予測しながら聞く。そして、生成AIがまさにその背景や予測の支援に極めて効果的なんです。

S氏:どんな活用が考えられるのでしょうか?

校長:TEDトークを聞く前にChatGPTに背景を調べさせる活動などでしょうね。例えば「このスピーカーはどんな立場の人?」「このテーマは最近どんな議論がある?」と事前に生成AIに尋ねさせる。そうすると、耳に入る内容が予測可能なものになって、理解度が一気に上がるんですね。

S氏:予測して読む行為に似ていますね。聞く前からもう聞く準備が始まっているというわけですね。

校長:その通りです。予測処理理論(Predictive Processing)と呼ばれる認知科学の考え方に合致しています。脳は、受け取った情報をそのまま処理しているのではなく、あらかじめ予測を立てながら入力を処理するというモデルですね。AIと組み合わせることで、この予測する力を鍛えることができるのです。

S氏:AIを学習のファシリテーターとして使う感じでしょうか?

校長:もう一つ、今の世代の生徒たちに有効なのがマルチモーダル・リスニングです。つまり、耳からだけでなく、目で見て、文で読んで、映像で理解するという手法。英語のニュースを聞きながら字幕を見る。その字幕をChatGPTに要約させる。さらに、自分の言葉で再構築するというものです。

S氏:単に情報量が多いのではなく、理解のフックが多いということですね。

校長:おっしゃる通りです。そして教師側の工夫も問われます。ある動画を教材に使うとして、その文脈をどう補助するかなど、指導者側の工夫も求められます。事前にAIで語彙の一覧を出させたり、簡易スクリプトを自動生成したり...生成AIは、まさにマルチモーダル教材を即興で作ってくれる「編集者」のような存在です。

S氏:生徒一人ひとりに合った聞き方ができそうですね。

校長:これも個別最適化です。ある生徒には映像付きの方が理解が進み、別の生徒にはスクリプトの要約が必要。AIは、それぞれに合ったサポートを即座に提供できる。これは、今までの集団授業では不可能だったことです。

S氏:先生がよくおっしゃる「言語は意味の創造」という考え方にも通じますね。

校長:リスニングも単なる受け身ではなく、意味を構築する営みと見なす。それに必要な材料を、AIが提供し、教師が設計し、生徒が選び取っていく。そういう学習環境こそが、これからの英語教育に必要だと感じています。

S氏:生成AIという新たなパートナーを迎え入れることの意味を痛感しました。