校長ブログ

AIによる心に届く広告制作

2025.08.11 トレンド情報

8月11日

 広告は、技術ではなく感性─これは広告業界でよく耳にする言葉ですが、最近その境界線が大きく揺らいでいます。AIが進化し、人の感性や思考、さらには嗜好までも理解し始めているからです。

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 少し前まで、AIは広告制作において効率化のツールに過ぎませんでした。画像の自動生成や投稿スケジュールの最適化など、人の手間を減らすための存在でした。しかし、今、その立ち位置は明らかに変化しています。AIが人の心に響く広告を、自ら考え、提案し始めているのです。

 例えば、ソニーネットワークコミュニケーションズ傘下のSMNが始めたマーケティング支援サービス「SENZAI」では、映画や音楽などソニーが誇るエンタメ分野の豊富なデータを学習した独自AIを活用しています。性別や年齢といった統計情報にとどまらず、どんな趣味を持ち、どのような感情を抱きやすいのかといった、きわめて人間的なデータにも注目しています。

 このAIは、SNSECサイトでの反応を分析し、この商品はロマンチック志向の人に好まれるといった、消費者像(ペルソナ)を描き出しています。そのうえで、友人との会話の中で投資の話題が出てくる、将来への不安を共有したいというような行動パターンまで読み解き、それに合わせた広告ストーリーを提案します。

 注目すべきは、そこに人間らしさがあることです。感性、共感、物語。どれも教育においても大切にしているキーワードです。つまり、AIが学ぶべきは情報ではなく、人間そのものなのです。

 この流れは、電通グループにも見られます。アートディレクターの感性をAIに学習させ、これまでAIが苦手とされたセンスのあるビジュアル制作に挑んでいます。実際、「とても辛そうなチリソース」という単純なフレーズから、「真っ赤な唐辛子から激辛エキスが抽出され......」というような、情景豊かな広告表現を生み出せるようになったのです。

 電通が力を入れているのは、広告画像の生成に留まりません。2016年からはAIコピーライター「AICO」を開発し、言葉の選び方、表現のニュアンスにまでAIを関与させています。このように人間の知恵がAIを高め、AIがまた人間の知恵を育てるという循環が生まれつつあります。

 さらに、教育分野にもその波は押し寄せています。サイバーエージェントとベネッセホールディングスの協業では、子ども向けの動画コンテンツ制作にAIが活用され始めています。漢字の学習状況に合わせて字幕の表示内容を調整する、DMに登場する人物画像をAIが生成するなど、まさに、一人ひとりに寄り添う教育的なアプローチが可能になってきました。

 広告という分野は、実は個と向き合うという意味で、教育に非常に近いのではないでしょうか?「この人は何を求めているのか?」「どんな言葉が心に響くのか?」という問いに対して、かつては経験と勘でしか対応できませんでした。しかし、AIの力を借りることで、それがより深く、より確かなものとして実現できるようになってきているのです。

 テノロジーが人を超えるのではなく、人を理解し、人を支えるものとして進化していることに未来への希望を感じます。AIは冷たい機械ではありません。それは、人の思いをすくい上げ、光を当てる新しいツールなのです。教育もまた、そんなAIとともに進化する必要があるのではないでしょうか?