校長ブログ

国立大の将来像

2025.08.12 大学進学研究

8月12

 国立大学協会が2040年の日本社会を見据えた国立大学の将来像を公表しました。その中には、18歳人口の激減、国際化、知的人材の確保といった大きな課題に向き合う方向性が示されています。

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 永田恭介会長(筑波大学長)の「競争力がへこんだ日本を何とかしたい」「我々にできるのは科学技術を伸ばし、良い人材を育てること」というお言葉は極めて率直です。なかでも今回の提言の中核は、少子化という避けがたい現実に、いかに学生の質を保ちながら、量を適正化するかということ。そのためには、定員を減らす代わりに、これまで十分に受け入れてこなかった社会人、女性、留学生、そして偏差値では測れない才能の持ち主を、新たな入試制度で迎える必要があるとされています。

 これは、単なる入試改革ではなく、人材の多様性を受け入れ、教育のあり方の抜本的に見直すパラダイムシフトと言えるもの。本校でも英語教育を充実させ、グローバル探究教育を推進する中で、知の多様性と学びの個別最適化がこれからの教育に欠かせないとする考え方に相通じます。

 提言では留学生比率の30%達成が掲げられています。永田氏はこれは移民政策ではないことを強調しつつ、日本に貢献できる知的水準の高い学生を選抜することの重要性を説いています。世界基準の学力を持つ生徒たちが、日本の大学で活躍できる道を整えることは、日本の高等教育にとって欠かせない戦略であることは自明です。

 また、知的基盤の維持・強化においては、博士号取得者数の年3万人への引き上げが目標。これは、日本の研究力を底支えするだけでなく、企業や社会が博士人材を真に活用する契機にもなるはずです。博士より学士を採るという慣習を打ち破り、専門性や創造性を尊重する社会への転換が求められています。

 一方で、地方の国立大学は、地域を支える人材を育成する使命を負っています。提言は教員養成を複数大学で連携して行うといった具体例を挙げ、大学間連携の必要性が説かれています。四国の5つの国立大学による取り組みがその好例であり、「国立大学システム」という視点が今後のヒントとなるかもしれません。

 教育の質を保つ上で、今後、私立大学との連携や教育コンテンツの共有が不可欠になることも述べられています。これは、米国カリフォルニア州のように、大学間で学生が行き来できるシステムを視野に入れたもの。つまり、単線的でない、柔軟な学びの回路を社会に組み込むという発想です。中等教育の段階から学び直しや選び直しが可能な教育設計を考えるべき時代に入っているのです。

 さらに、医学部卒業生の大学病院での研究経験を積ませる構想は、研究医の確保や臨床の質の向上に直結するものであり、地域医療と学術の橋渡しとなる発想です。大学病院が本来の役割に集中し、優れた医療人材を輩出し続けるためには、国や自治体の支援も含めた包括的な見直しが必要なのです。

 ランキングや偏差値といった一元的な評価尺度を越えて、教育が本来持つべき自由と創造性を取り戻すことが、真の教育改革。国立大学の将来像に示された構想は、中等教育にも深く関わってきます。大学が変われば、高校は変わらざるを得ません。中学・高校で育てる力、そして社会へ送り出す責任が、より一層問われる時代が来ているのです。