校長ブログ

英語教育を考える⑧ー論理的な英文を書く

2025.08.01 教科研究

8月1日

 今回は「論理的な英文を書く」をテーマにしてW氏との対談の一コマからです。

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W氏:様々な研究成果を現場に取り入れている平井校長にお会いできて大変光栄です。談話文法(Discourse Grammar)の知見を英作文に取り入れられているとお聞きしたので、お話を伺いたく参りました。

校長:ありがとうございます。きっかけは、生徒たちの「伝わらない」という声でした。文法項目を正確に覚えていても、実際のテクストになると意味がつかめない。そこにあるのは、「文のつながり」が見えないという課題です。談話文法は、まさにそのつながりを明示する手法として、有効だと感じたのです。

W氏:確かに、従来の英文法指導では、文単位での正誤判断に終始してしまいがちでした。文の流れや段落間の論理が見えるようになることで、生徒たちの理解はどう変わったのでしょうか?

校長:変化は明確でした。評論文を読むとき、"However," "In fact," "Therefore" といった論理接続を示す語句にはマークするよう助言しています。何と何をつないでいるのかを前後左右で話し合わせて、論理構造をおさえる作業をすると、「読めた!」という実感が生まれるんです。

W氏:素晴らしい実践です。いわば、「読みながら考える英語」の育成ですね。具体的な授業の場面をもう少しコメントをいただけますでしょうか?

校長:例えば、中3の授業では、エッセイや説明文を読む際、段落ごとの役割やつながり方に注目させます。先生方には意味の流れを可視化してほしいと言っています。論点がどう展開されるか、視覚的に整理する。生徒たちはその構造を"見える化"することで、英文が一つの意味のまとまりであると理解するのです。

W氏:なるほど。それは論理的思考力育成のトレーニングにもなりますね。ライティングの指導では、談話文法をどのように応用すれば効果的なのでしょうか?

校長:論理の流れを持って書くという意識をもつこと。例えば、「制服に賛成か反対か」といったエッセイでは、単に主張を書くのではなく、段落ごとのつながりを意識させる。"First," "On the other hand," "This is because..." のような接続語をただ入れるだけでなく、「なぜその語が必要なのか」「前の文との関係は何か」と問い続けることで、書く力が一段階伸びてくるのです。

W氏:表現がまとまりある主張に変わるわけですね。それは単なる語彙や構文の運用力以上の力で、グローバルな発信力の基盤になりますね。

校長:その通りです。実際、海外の学校とのオンライン交流でも、談話文法の力は活きてきます。生徒たちは事前にディスカッションの流れをシミュレーションし、意見を述べた後に相手の主張にどうつなげるかを練習します。ある生徒は、"That's an interesting point, but I'd like to add..." と相手を尊重しつつ自分の意見を重ねており、現地の生徒にとても好感を持たれていました。

W氏:すごいですね。単に英語を使うのではなく、関係を築く手段として使っている。

校長:英語は目的ではなく、人とつながる手段です。だからこそ、文と文のつながりだけでなく、人と人の対話を支える意味の構造を教えることが重要なのです。

W氏:とても学びの深い視点だと思います。談話文法という一見アカデミックな概念が、現場の生徒たちの言語体験を支えていることに驚かされました。今後、この取り組みをどのように発展させていかれるのですか?

校長:談話文法だけでなく、先達の優れた研究成果は積極的に活用するつもりです。カリキュラム・マネジメントの視点からは、英語科だけでなく、国語、探究などとの接続を強めたいと思っています。テクストの構造を理解する力は、すべての教科に通じますから。そして、何よりも大切なのは、現場の教師が納得し、やってみたくなる指導法であること。そのために一緒に改善を繰り返しています。

W氏:共に学ぶ姿勢を貫かれるところに感銘を受けます。貴重な学びをありがとうございました。