校長ブログ
英語教育を考える⑨ー思考の枠組み
2025.08.05
教科研究
8月5日
「英文法は"意味をつくる道具"である」をテーマにN氏と対談しました。
N氏:校長先生はかねてから文法が思考の枠組みとおっしゃっていますね。これはどのような意味なのでしょうか?
校長:文法というと、規則や構文の暗記と思われがちですが、文法とは、その言語を使って世界をどう捉えるかという"思考のフレーム"という意味です。
N氏:つまり、この文法事項はなぜこうなるのかを生徒自身に考えさせるということですね。
校長:ええ。文法は「使い方」以前に、「意味の持たせ方」なんです。これは生徒の思考力を高め、他教科ともつながるアプローチになるはずです。例えば、現在完了形ならWhy do you say "I have been to Kyoto" instead of "I went to Kyoto"? What does the speaker want to emphasize in each case?のような質問を投げかけるといった具合ですね。
N氏:御校では、ペアワークや対話的な活動が多く取り入れられていますが、それもこの考え方と関係していますか?
校長:文法が意味の交渉ツールとするならば、誰かと話す中でこそ意味が生まれるという発想ですね。
N氏:言語を「使う」感覚の育成ですね。先日、機能文法のハリデーについて言及されたと伺いました。
校長:それだけに限りません。単元によって優れた先達の研究成果を積極的に活用させてもらっています。ハリデーの理論では、言語は意味の体系であり、経験的意味、対人関係的意味、論理的意味、テクスト形成的意味に分類されますが、その一部を取り入れることで「文法=意味をつくる仕組み」へと、生徒の理解を変えていくのです。
校長:能動態と受動態の違いなら普通は「どちらも同じ意味」で済ませてしまいがちですが、「誰を焦点に置きたいのか」「誰を目立たせたいのか」という視点を生徒に考えさせます。
N氏:なるほど。面白そうですね。助動詞の指導で使えるように感じました。
校長:助動詞 なら対人関係をどう構築しているかという問題提起をすることで言語に魂が吹き込まれます。
N氏:英語らしい論理展開を作るために、文法的選択がどう貢献するかを体験的に学べるわけですね。
校長:学習指導要領が探究的アプローチを主流に据えている以上、正解を教えるのではなく、問いを立てることが求められます。文法の背景には「なぜその形が選ばれたのか」「どんな意味が生まれるのか」という文脈があり、そこに生徒の思考を導いていくことが探究につながると考えています。
N氏:探究の「深い学び」につながりますね。
校長:だからこそ文法を、英語だけでなく、学び全体の中核と位置づけられるのです。言葉を通して考える力を育てる。それが文法教育の本質だと思います。
N氏:若手の英語教員へメッセージをお願いします。
校長:文法を教える対象からともに考える対象にしてほしい、ということです。文法は本来、とても人間的で、思考的で、創造的な営みです。「言葉の使い方」ではなく、「言葉の意味づけの仕方」を、生徒と一緒に探る時間があってもいいんじゃないですか?
N氏:確かに。印象的だったのは、文法が生徒の思考を拓く道具という視座です。いろいろな研究成果を活用して生徒の言語感覚を鍛えるのもまた重要と感じました。
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