校長ブログ

アニメーター

2025.08.14 トレンド情報

8月14日

「逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ」。これはアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』の名セリフでありながら、今、日本のアニメ産業が直面する危機に最も響く言葉かもしれません。

スクリーンショット 2025-08-10 20.18.16.png

 日本のアニメは、もはや単なる娯楽を超え、国の成長戦略を担う柱となりつつあります。2023年、日本のアニメ市場は3兆3465億円に達し、そのうち海外市場は1兆7222億円と国内を超えました。政府は2033年にコンテンツ産業全体の輸出額を20兆円に引き上げる目標を掲げており、アニメの貢献は6兆円以上が期待されています。

 しかし、その華やかな世界の裏では、深刻な人材不足と構造的な疲弊が進んでいます。日本総研の試算によれば、2050年にはアニメーター等の制作者数が2019年比で3割近く減少する見込み。しかも、その多くは、若手が育たず、中堅が潰れ、ベテランが去るという三重苦の中で起こるものです。

 アニメの制作現場では、若手に任せられる仕事が限られ、結果として中堅や作画監督への負担が集中します。これでは育成が回らず、好循環は生まれません。また、年収240万円未満という回答が45%を占めるなど、生活基盤としての不安定さも大きな要因です。

 しかし、現場には確かな希望の芽もあります。「名探偵コナン 隻眼の残像」に名を連ねた杉沢あいなさんは、トムス・エンタテインメントの「TMS作画アカデミー」で学び、現場に送り出された若き逸材です。彼女のように、学びと実践が結びつく環境が、ようやく整いつつあります。トムスは社員アニメーターを育てる方向に舵を切り、他社も追随しています。

 育成の取り組みは広がりを見せています。NAFCAはスキル検定を導入し、客観的な力量認定の道を開きました。バンダイナムコは「サンライズ作画塾」、ぴえろは「NUNOANI塾」で、若手に実践力と専門知識を提供し、演出家やプロデューサーへの道を体系的に支援し始めています。

 重要なのは「夢」だけではなく、「構造」を変えることです。海外での人気に対して、制作会社に還元される収益が極めて少ない現状を変えなければ、若手の努力が消えてしまうことになりかねません。

 AIが進化しても、人間の創造性はアニメという文化の根幹です。だからこそ、私たちは今、目の前の若者をどう育て、定着させるかという問いに本気で向き合わねばなりません。アニメの世界の未来を創るためには、現実の教育と産業構造の改革なくしては成立しません。描き手を育てるという時期に来ているのは紛れもない事実なのです。