校長ブログ

英語教育を考える⑪ー認知心理学の貢献

2025.08.15 教科研究

8月15日

 英語科のR先生との対話から。

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R先生:校長先生、リーディング指導について少しご相談がありまして...最近、認知心理学の本を読んだのですが、英語教育、とくにリーディングとの関係が深いことがわかり、興味が湧いてきたんです。

校長:認知心理学は、リーディング指導の理論的基盤としてとても有効だよ。読むという行為は、単なる語の訳出ではなく、人間の認知システムによる高度な情報処理活動なんだ。視覚情報として単語を捉え、それを文の構造に沿って意味に再構成していくーその一連のプロセスを、認知心理学はモデルとして説明しようとしているんだね。

R先生:つまり、"訳す"のではなく、"処理する"という視点で読解を捉えるということですね。

校長:そう。認知心理学では、読解をボトムアップ処理とトップダウン処理の相互作用として捉えているよ。前者は文字、語彙、文法といった情報を土台に積み上げていく処理、後者は読者の背景知識や文脈を使って意味を予測していく処理だね。

R先生:生徒によって、どちらの処理に強みがあるかは違いそうですね。

校長:だからこそ、教師は学習者の認知スタイルを見極め、それに即した支援を行う必要があるんだ。つまり、教師が学びをデザインするファシリテーターであるべきなんだね。

R先生:なるほど...それが校長先生がいつもおっしゃるファシリテーターとしての教師の役割ということですね。

校長:読解力を高めるポイントの一つがスキーマの活性化。スキーマとは、既に持っている知識や経験の枠組みのことだよ。

R先生:そうした知識が、読解に影響を与えるということですね。授業の導入に使えそうです。

校長:Pre-reading activitiesとしてスキーマを喚起する活動は、読解の準備として非常に効果的だね。背景知識を活性化することで、読みのプロセス自体がスムーズになるよ。

R先生:確かに。知らない話題の英文は読みにくいですから。生徒にはそのことを伝えたく思います。

校長:さらに、複雑な文構造を理解するにはワーキングメモリの働きも欠かせないよ。これは情報を一時的に保持し、文脈と照合しながら処理していく力のこと。教師は、生徒がどこで意味処理に詰まっているかを丁寧に観察する必要があるよ。

R先生:まさに個別最適化ですね。文構造のどこで負荷がかかっているかを見ていくと...

校長:だからこそ、教師も教材の情報量を調整したり、チャンク単位で読ませるよう工夫したりする必要があるんだ。認知資源には限りがあるから、語彙力や文法力の"自動化"が求められてくるよ。一語一語訳して読む段階から、意味処理に集中できる段階へと導くには、語彙や構文の処理が"無意識レベル"で行えるようになることが目標だね。

R先生:地道な語彙指導や繰り返しの練習が、大切である意味を再確認しました。

校長:"なんとなく"の指導に陥らないためには、やはり理論が必要だよ。文法指導でも、「文法のための文法」ではなく、「意味を捉えるための文法」であることが重要なんだ。読解力の高い学習者は、読んでいる自分を客観的に見つめ、必要に応じて読み方を調整できるーつまり「メタ認知的な読み手」なんだね。

R先生:読んだ後のリフレクションにもつながりそうですね。

校長:おっしゃる通り。リーディング・ストラテジーの指導や、読後のセルフモニタリング活動は、メタ認知を育てる上で非常に有効。「どこで意味が取れなかったのか」「何が理解のヒントになったのか」といった問いを通して、自分の読み方を振り返る力が伸びていくよ。つまり、"読む力"を支える"読む力を育てること"ーそれがメタ認知ということになるね。

R先生:認知心理学の視点は、ただ「どう読ませるか」ではなく、「なぜそのように読ませるのか」という問いを教師自身に投げかけてくれますね。その問いに理論的に答えられることが、指導の説得力にもつながる気がします。

校長:リーディング指導は単に情報を伝えるための活動ではなく、思考を支えるスキルを育てる営み。教師自身が"読むという行為"を深く捉え直すことで授業の質は大きく変わってくるはずだよ。