校長ブログ
言葉の自然習得
2025.08.30
グローバル教育
8月30日
海外ルーツの生徒の言語習得と、そこに立ち現れる"自然習得"の可能性について、A先生との対話から。教師一人ひとりのまなざしが、"言葉を育てる環境"そのものになるという誇りと責任を胸に、教育活動に邁進していきたいものです。
A:校長先生、海外から来たばかりの生徒とのコミュニケーションに悩んでいまして...ほとんど日本語を話してくれないんです。授業についていけてるのかも心配で...
校長:その"話してくれない"という状況、実は"話せない"のではなく、"沈黙期"にある可能性が高いね。これは、第二言語習得の初期段階でよく見られる現象なんだよ。
A:沈黙期...ですか?
校長:そう。聞くことに集中して、インプットを蓄積している時期なんだね。つまり、目や耳からの情報を取り込みながら、じっくりと言語の構造を内面化している状態。この期間は、話さないけれども学んでいないわけではないよ。
A:なるほど...確かに最初は無言だったのに、1年後にはクラスで冗談を言うようになった生徒もいました。
校長:これまで様々な国の生徒たちが本校に在籍しているけど、同じように1〜2年で日本語が見違えるように上達していくケースも多々、あったよね。個人差はあるけど、これは"自然習得"という概念で説明できるよ。
A:自然習得...それってどういうことですか?
校長:言語学者スティーブン・クラッシェンは、言語の習得には「学習」と「習得」の2つの経路があるとし、特に「習得」は無意識のプロセスによって、理解可能なインプットを通じて成立するとしているよ。
A:理解可能なインプットとは?
校長:簡単すぎず、難しすぎない言語刺激のこと。例えば、テレビ番組、友達との会話、授業中の板書や図解などがそれにあたるよ。これらが生徒の中に自然に蓄積されていくことで、言葉を「使えるもの」として獲得していくんだね。そこに伝えたいという動機づけが加わると、言語の習得は一気に加速するというわけ。
A:つまり、クラブ活動や休み時間の雑談も大事なんですね。
校長:そう。社会的に意味のある状況での言語使用こそが、最も力のつく学びなんだね。友達ともっと話したい、自分の考えを先生に伝えたい―そう思ったとき、人は本気になるからね。
A:でも、授業の内容が難しくて、生徒が理解できていないと感じることも多くて...
校長:だからこそ、教職員が言語教育の担い手という意識を持たなければならないんだ。国語科の先生だけに任せるのではなく、どの教科であってもやさしい日本語、視覚支援、翻訳ツールなどを駆使して、生徒が意味のある学びを経験できるような工夫が必要だよ。
A:なるほど...言葉を"教える"のではなく、"使える環境"をつくるということですね。
校長:日本語=学力と単純に結びつけるのではなく、自分らしさを表現する手段、社会とつながる架け橋という視点を大切にしてほしいね。言語を学ぶことは、社会の一員になることとイコールなんだから。
A:校長先生、今日のお話を聞いて、言語って教科じゃなくて文化そのものなんだと気づきました。
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