校長ブログ
英語教育を考える⑰-生成AIと生成文法
2025.09.09
教科研究
9月9日
![]() A:最近、生成AIがすごく話題になるんですが、生成文法というのもどこかで聞いたことがあって...名前は似てますが、何か関係あるんでしょうか?
校長:よい質問だね。実は、直接の関係があるわけではないけど、生成AIも生成文法も、"ことばをどう生み出すか"という、人間の知性に関わる点ではつながっているよ。
A:ことばを生み出すって、どういう意味ですか?
校長:ことばを生み出すというのは、例えば、初めて聞く文章でもすぐに意味がわかるように、無限の文を有限のルールで組み立てて理解しているということ。この仕組みを科学的に解明しようとしたのが、生成文法(generative grammar)だね。
A:文法のルールってことですよね?
校長:そう。ただ、学校で習うような正しい、誤りという意味での文法ではなく、脳の中で言葉を構造的に生み出す仕組みに近い考え方のこと。これを体系的に理論化したのが、アメリカの言語学者ノーム・チョムスキーだね。
A:聞いたことがあります。チョムスキーって、哲学の本にも出てきました。
校長:チョムスキーは、単なる言語学者ではなく、人間の知性や認知のあり方を、言語を通じて研究する思想家でもあるよ。チョムスキーは「人間には生まれながらにして言語を学ぶ能力(普遍文法)が備わっており、無限の文を生み出す能力を先天的に持っている」という考えに基づいているんだね。つまり、文法は単なる規則の暗記ではなく、文を「つくり出す」ための内的なメカニズムと捉えているわけ。
A:赤ちゃんがことばを覚えるのって、仕組みがあるってことですか?
校長:子供がどんな環境でも、その国の言語を習得できるのは、人間が生得的にもつ言語を生成する力があるからだと考えているんだね。
A:なるほど。でも、それが生成AIとどのような関係があるのでしょうか?
校長:生成AIは、大量のテキストデータから統計的な規則を学び、そこから新しい文章をつくっているんだ。だから、パターン予測の積み重ねと言えるね。一方、生成文法は、「言語を生み出す力」に焦点を当てているところに違いがあるよ。
Aさん:つまり、AIは外から学ぶ、生成文法は中にある力ってことですか?
校長:まさにそう。例えば、生成AIは次に来る単語を確率で予測するけど、チョムスキーはなぜその文が可能なのかという構造的な問いに取り組んできたんだね。
A:どっちも言葉を生み出してるけど、アプローチが違うんですね。
校長:近年では、チョムスキーの理論をヒントにAIモデルを構築しようという試みもあるよ。つまり、人間の生成文法の理解が深まれば、AIの開発にも応用されうるというわけだね。
A:それって、英語だけでなく国語、第二言語教育全般にも活かせそうですね。
校長:言葉を学ぶことは、単に受験や点数のためではなく、自分の中の思考の構造を理解し、他者と知的に関わる力を育むことでもあるよ。生成文法は構造的な思考の背景にある理論だから、タスク型授業との親和性があげられるね。問題を解決するという実践的な課題の中で、どう表現すれば伝わるかを考えると、情報伝達手段を単なるミスと見るのではなく、生成システムがうまくいかない場合、そこから、何が抜けていたのか、何と何を結びつけるべきだったのかという思考に導くことができるんじゃないかな。
A:ことばって奥が深いですね...
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