校長ブログ
理系大学院生の就活
2025.09.10
大学進学研究
9月10日
大学院に進学し、社会の課題に正面から取り組もうとする将来を担う若者たち。研究室で積み上げているのは、知識や技術だけではなく、探究する姿勢、粘り強さ、仮説と検証を繰り返す知的誠実さなど、まさに未来を支える「人間力」そのものです。
しかし、その時間とエネルギーが、就職活動の名のもとに削られている現実があります。とりわけ、理系の就職は学校や指導教授による推薦が主なルートでしたが、近年は企業が多様な人材を求めるなどの事情で減りつつあります。また、企業の採用活動の早期化など、かつてない難題に直面しています。
修士課程に進学した1年の夏には採用に直結することもあるインターンが実施されるため、院生は入学直後から準備しなければなりません。年内に選考が始まる企業も多く、進学してまもなく就職活動を意識しなければならないような空気があるようです。
それでいて、研究活動と就活との両立は、想像以上。ある学生は、学会発表を優先するために夏のインターン参加を断念したと言います。また別の学生は、研究成果を企業の採用担当者に伝える場を得たことに手応えを感じているものの、もっと時間があればと複雑な胸中を語っています。前途ある若者が目の前の研究と未来のキャリアとの間で揺れているのです。
そのような中、研究発表を通じて企業と出会うマッチングイベント(LabBase+電子情報通信学会主催)が開催されました。慶応大、名古屋大、東北大などの修士・博士課程に在籍する学生が集まり、研究をポスター形式で説明し、日立製作所、デンソー、NTTデータなど約10社が見学に訪れ、学生の発表に耳を傾けたとのこと。そこには、互いに学び合い、共に未来を描こうとする意志が感じられます。
こうした試みは、単なる採用活動の一環ではなく、研究と仕事を分断しない新たなキャリア形成の可能性を示しています。研究に没頭してきたからこそ生まれる価値が、企業の中でどのように活かされるかを、社会が問い直す時期に来ているのです。
しかし、博士号取得者に関しては、キャリアパスの不透明さ、企業側の理解不足、社会的な位置づけの曖昧さ等々、依然として厳しい現実があります。博士課程修了者の数も、人口比で見れば欧米諸国の半分以下。これがイノベーション力の停滞と指摘する声もあります。
一方、中国では、22年度に8万人以上が博士号を取得しています。「科学技術立国」を掲げる国家の姿勢が、数字として表れています。
日本は長期的な競争力を向上させるために、今こそ、大学院の存在意義、研究の先にあるもの、そして、その取り組みにどう向き合う社会であるかを問い直す時期ではないでしょうか?