校長ブログ

大学の年内入試

2025.09.04 大学進学研究

9月4日

 文科省が2025年度からの大学入試に関する新たな方針を発表しました。これまで原則として認められてこなかった「年内入試」における学力試験の実施を、一定の条件のもとで解禁するというものです。

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「年内入試」とは、総合型選抜や学校推薦型選抜など、高3の秋から冬にかけて選考・合否が行われる入試のこと。ここ数年、この方式を用いた入学者の割合は右肩上がりであり、2023年度には全入学者の半数を超えました。早期に進路を決めたい生徒の希望と、人物評価を重視したい大学側の意図が合致し、広く普及しています。

 一方で、入学後の学力不振を懸念する声もあります。特に、高校教育と大学教育の接続が不十分なまま、人物評価だけで入学が決まる現行制度には、教育現場からも「何をもって大学で学ぶ力とするのか」という根本的な問いが投げかけられています。

 今回の制度変更のきっかけとなったのは、東洋大が2024年度に実施した「学校推薦入試基礎学力テスト型」です。推薦書に加え、2教科の学力試験で評価するという形式は、従来の「人物重視」とは異質のものでした。結果、文科省による指導が行われ、制度全体の見直しが始まりました。

 新たに公表された「大学入学者選抜実施要項」では、年内入試で学力試験を課す際には、調査書や小論文、面接などと組み合わせて多面的に評価することが求められます。単に知識の量を測るのではなく、学力を含めた総合的な力―いわば「学ぶ力」そのものを見極める姿勢が重要であるとされています。

 しかし、現場にとっては、これがすぐに実現可能な話ではありません。すでに関西の大学では、推薦型選抜において学力試験を導入している例があり、今回のルール改正はむしろその実態を追認した側面があります。近畿大学や龍谷大学などが先駆けとなり、関東にも徐々に広がる兆しがあります。

 学力試験を課さないと明言している大学も一定数存在します。立教大学や法政大学などがその代表例。新制度の運用は大学の裁量に委ねられており、配点や評価のバランスも様々です。この多様性こそが大学入試の面白さであり、同時に混乱の原因にもなるのです。

 ポイントとなるのは、この動きが果たして高大接続の本質的な見直しにつながるかどうかという点です。受験機会の多様化と学力評価の再導入は、大学の姿勢としては理解できますが、「推薦型=人物評価、一般選抜=学力評価」という二項対立のままでは、本質的な接続の再設計とは言えません。

 推薦であっても、学力的な裏付けは必要であり、一般選抜であっても志望理由や課題解決能力のような非認知能力を測る工夫は不可欠です。今後の焦点は学力と人物評価の両立に向けての設計力ということになります。

 リクルート進学総研の小林浩氏は、新しいルールはきっかけに過ぎず、制度整備の先にある高大接続の本質に目を向けるべきだと述べられています。制度の改正はスタートラインにすぎません。それぞれの学校や大学が、どんな人材を育てたいのか、そのビジョンのもとに制度を使いこなすことが問われています。

 高校の責任も大きくなります。推薦書一枚にどれだけの重みを込められるか、学力と非認知能力の両面をどう育成していくのか。この変化を教育の本質を問い直す好機と捉えたいものです。未来の大学入試が、単なる知識の多寡ではなく、学び続ける力を測るものになるよう、高校と大学のより本質的な対話を期待したいところです。