校長ブログ

英語教育を考える⑮-項目反応理論

2025.09.02 教科研究

9月2日

 項目反応理論(IRT)は、テストを"問題数"ではなく"質"で見る視点を与えてくれるもの。U先生との対話からです。

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U先生:テストを作問するたびに「この問題、意味あるのかな?」って悩むんです。難易度とかも主観で決めていて...もっと科学的に分析できたらよいと思うんですが...

校長:それ、まさにIRTが力を発揮するところだね。

U先生:研修でも聞きました。でも、正直まだピンとこなくて...

校長:IRTは、問題項目の性質と受験者の能力の関係を数式で表したもの。例えば、生徒が10問中7問正解したら70点ですが、それだけではどんな力があるかまではわからないよね。

U先生:はい。同じ7問正解でも、簡単な問題ばかりだったら...その点、IRTでは問題一つひとつに難易度、識別力、当て推量の確率という3つのパラメータがあって、それを踏まえて潜在的な能力を推定するんだって聞きました。

校長:そうだね。意味を選ぶ単語問題で考えてみようか?① apple、② catalystはどう?

U先生:①は簡単ですけど、②は高校生には難しいかもしれません。

校長:①のような単語は難易度が低いけど、②は語彙力が必要で、難易度は高いと言えるね。また、②ができる生徒は識別力が高く、逆に、誰でも半分くらい正解するような問題なら、識別力は低いということになるね。

U先生:確かに。でも、選択問題なら、当てずっぽうこともありますよね?

校長:そう。IRTでは推論で当たる確率もモデルに組み込んでいるんだ。4択問題なら、到達度に関係なく、25%の確率で正解するだろ。これをパラメータとして計算しているんだよ。このIRTをベースにして作られているのがコンピュータ適応型テストなんだね。最初は中程度の問題から始まり、正解すれば難しい問題、間違えれば簡単な問題へとリアルタイムで出題内容が変化するんだ。

U先生:それって生徒にとってもストレスが減りそうですね。無理な難問が続くこともなくて。

校長:しかも、最小限の問題数で精度高く能力を推定できる。忙しい高校生には理想的だね。

U先生:でも、英語力って単語だけじゃなくて、リスニングや文法、読解力もありますよね?

校長:そこで登場するのが多次元IRT。同じリーディング問題でも、ある問題は語彙力、別の問題は文構造の理解を測るというように、一つの能力ではなく、複数の力の組み合わせで問題を分析できるんだね。

U先生:教育の見方が変わってきました。

校長:大切なのは、これを理論だけで終わらせないこと。授業でも、IRT的視点を持って問題を選び直すことはできるよ。「この問題はどの力を測っているか?」「どの生徒がどのレベルでどの問題に躓いているか?」「これは識別力の高い良問か?」など、常に疑問をもって作問研究をすると、テストづくりも授業も、もっと効率的で生徒の力に応じたものになるよ。

U先生:ありがとうございます。さっそく次回の定期考査で識別力のある問題を考えてみます。

校長:教師にとって問題を見る目を鍛えることが、結局は生徒の成長につながるということを忘れないでほしいな。