校長ブログ

教員への道

2025.09.03 トレンド情報

9月3日

「もっと早く教師になっていればよかった」これは、これまで出会ってきた"遅れて教育界に飛び込んだ"先生方が、よく口にする言葉です。

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 文科省がこのたび打ち出した新たな方針は、社会人が最短1年で教員免許を取得できる大学院課程の創設であり、まさにそのような方々のための扉を開くものです。すでに学士号を持つ社会人を対象に、1〜2年で教員免許を取得し、翌春には教壇に立てる仕組み。これまで2〜4年を要していたルートを大胆に短縮するこの改革は、教育界に新たな風を呼び込む可能性を秘めています。

 現状、公立小中高校で新たに採用された教員のうち、民間企業出身者はわずか4.5%。多くの教師が大学卒業後すぐに教職に就く中、社会経験をもった大人が教壇に立つ機会は非常に限られていました。しかし、社会が大きく変化し、子供たちが予測不能な未来を生きる時代にあって、教育現場にも多様なキャリアをもった人材が求められています。

 特に、ITスキルや国際感覚を持つ人材の重要性は、今や誰の目にも明らかです。GIGAスクール構想によって1人1台端末が整備された今、その活用度は教員のITスキルによって大きく差が出ています。また、小学校英語が教科化され、中高でも英語力が問われる中で、留学や海外業務経験のある教師は貴重な存在です。ところが、現在小学校英語担当者のうち留学経験があるのは9%にすぎないというのが現実です。

 さらに、新制度の意義は"制度改革"にとどまりません。これまで社会人が教員免許を取るには、大学に入り直すか、大学院で学びつつ学部科目も並行取得する必要がありました。当然ながら、収入面や家族の支援の問題で断念する人も多かったはずです。今回の新課程は、そうした制約を乗り越える道筋を示してくれます。

 もちろん、課題がないわけではありません。中央教育審議会ではこの秋から、教育実習のあり方や教科指導の水準、養成期間の短縮による人材の質の担保など、丁寧な議論が始まります。ただ、これは議論する価値が十分にあるテーマです。海外ではすでに大学院を経て短期間で教職資格を得るルートが確立しています。例えば、イギリスやオーストラリアでは、こうした仕組みが主流になりつつあります。

 一方で、教職という仕事そのものが、今、選ばれにくい状況にあることも忘れてはなりません。長時間労働や複雑な保護者対応、クラブ活動などが影響し、2024年度の小学校教員の採用倍率は過去最低の2.2倍。人気の回復には、処遇改善と職場環境の見直しが不可欠です。6月に成立した教職調整額の2.5倍への引き上げや、部活動の地域移行、業務外注化などは、その第一歩として評価できます。

 教職に志をもつ社会人が、自らの人生経験をもって教室に立つ日を心から歓迎したいと思います。