校長ブログ
月面開発
2025.09.11
教科研究
9月11日
今や、次世代に託すべきビジョンは「地球規模」ではもう不十分かもしれません。「宇宙規模」で物事を捉える視座こそが、これからの学びの起点になる──そんな思いに駆られたのは、民間企業アイスペースの月面着陸計画に接したからです。

2025年6月6日、日本時間午前4時24分。月面「氷の海」に向けて、アイスペースの着陸船が最終段階に入りました。アジアの民間企業としては初の月面着陸がかかるこの挑戦に、世界中の目が注がれています。失敗のリスクも当然あります。しかし、私が注目したのはその「前例に学び、再挑戦する姿勢」です。
2023年の初挑戦では、着陸目前で失敗。しかし、それから2年が経ち、袴田CEO率いるアイスペースは技術の精度を一層高め、今回の挑戦に臨みました。教育現場でもそうですが、「失敗を恐れない」文化こそ、未来を切り拓く第一歩になると強く感じます。
このプロジェクトには多くの日本企業が技術支援や資材提供という形で参画しています。日本航空の溶接支援、シチズンの軽量素材、スズキの構造解析、そして高砂熱学工業の月面用水電解装置。これらは、もはや単なる「支援」ではなく、日本のものづくり精神が月面という新たなフィールドに拡張されている証左です。
資金面でも、民間からの出資や三井住友銀行からの100億円の借り入れに加え、JAXAや欧州宇宙機関との連携により、事業は確かな厚みを持ちつつあります。今やアイスペースの時価総額は約1,200億円。この事実が、宇宙がもはや夢やロマンだけではなく、現実のビジネスの場になりつつあることを雄弁に物語っています。
PwCの予測によれば、2040年までに月面ビジネスの市場規模は累計で24兆円に達するとのこと。水の電気分解による燃料生成、月面資源を活用した基地建設、さらには火星探査の前哨基地としての役割。月面は、次の産業革命の舞台とも言えるものです。
各国の動きも加速しています。中国は裏側への着陸を成功させ、35年には宇宙飛行士の滞在を目指す月面基地を計画しています。米国もアルテミス計画で再び月面に人類を送り込もうとしつつ、火星へと視線を移しています。日本もSLIM計画で着実に成果を重ねています。
"ムーンラッシュ"とも呼ばれるこのような国際的な開発競争の中、日本の民間企業がどう存在感を発揮するかが問われています。技術者を育てるだけでなく、「なぜ月に挑むのか」「どんな社会をつくるのか」と問える若者を育てなければなりません。6月6日という一日は、単なる技術の節目ではなく、「未来の学び」を問い直す起点となる感じているのは私だけではないはずです。