校長ブログ
理科離れ
2025.09.17
教科研究
9月17日
文科省から2025年度全国学力・学習状況調査の結果が公表されました。今年は3年ぶりに理科が対象に含まれ、中3はパソコンを使ったCBT方式で受験しました。生徒ごとに出題内容が異なる形式だったため、従来の平均正答率ではなく、IRTスコア(項目反応理論スコア)が示され、今回は「505」という結果でした。

この数値だけを見て一喜一憂する必要はありません。しかし、今回の結果から注目すべきは、「なぜ理科を好きでなくなるのか」という現象の背景にあるものです。
小学生では「理科が好き」と答えた児童が約8割を占めたのに対し、中学生では6割にとどまりました。生物観察や天体の観測といった「楽しい」理科から、エネルギー保存や化学反応、熱量の計算といった「難しい」理科への移行が、中学生の学びにブレーキをかけているようにも見えます。ドライアイスの中でマグネシウムが燃える動画を視聴後、原子や分子の化学反応式を正しく作れた生徒は4割。電熱線で水を温める実験を題材に、回路の電流・電圧や抵抗、熱量に関する知識を問うた問題の正答率は5割でした。
実際に今回のテストでは、動画を見て化学反応を考察したり、回路に関する実験から熱量を計算する問題で、多くの中学生が苦戦したと報告されています。これは、暗記から思考への質的転換がうまくいっていないことの表れかもしれません。
また、性別による意識差も見逃せません。理科のスコア自体は女子の方が男子を上回っているにもかかわらず、「理科が好き」「得意」と答えた割合は女子の方が低いとのこと。これは、女子生徒が本来持っている可能性に、自ら、あるいは周囲が"蓋"をしてしまっている可能性を示唆しています。文科省もアンコンシャスバイアス(無意識の思い込み)が背景にあるのではないかと指摘しています。
日本理科教育学会会長の久保田善彦氏(玉川大学教授)は、理科への関心を高めるためには探究学習が重要であると述べています。すなわち、知識を教え込むのではなく、問いを立てて自ら探る学びへと転換することです。
これは、カリキュラム・マネジメントにもつながります。生徒の関心や資質を起点に学びを構成し、教員の専門性を協働的に活かして授業を再設計する。ICTを活用しようと、教科横断で設計しようと、中心にあるのは「問い」なのです。
理系人材の不足が国の試算で指摘されて久しい今、学校は理科を好きでいられ続けられる仕組みを意識的にデザインする必要があります。先端技術の進展によって、理系人材は40年に100万人不足するとの国の試算もあります。そのためにできることは、まず「楽しく、深く、考える理科」を現場に取り戻すこと。そして、女子を含むすべての生徒が、自分の可能性に自信を持てるような学びの環境を整えることです。
理科離れの問題は、単なる成績の話ではなく、学ぶことの意味に直結しています。教育の本質を問い直す機会として、今回の調査結果を受け止めたいと思います。