校長ブログ

技術は人類を幸せにしているのか?

2025.09.18 トレンド情報

9月18日

 18世紀の産業革命以降、人類は技術という知恵を手に入れ、文明の歩みを飛躍的に加速させてきました。蒸気機関、化学産業、自動車、そして今日ではAIEV(電気自動車)といった革新が、暮らしを一変させました。しかし、その進歩の足元には、見過ごすことのできない環境汚染の歴史が横たわっていることもまた事実です。

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 例えば、「環境にやさしい」とされるEVCO₂を排出しないという特性から、次世代の希望の象徴としてメディアやモーターショーなどで華やかに取り上げられています。しかし、新しい技術が果たして本当に人類を幸せにするのでしょうか?その問いを改めて立ち止まって考える必要があります。

 実際、EVの生産プロセス、特に電池に使われる材料の精製には、二酸化硫黄(SO₂)の大量排出という課題があることが、近年の研究によって明らかになっています。2024年、インド工科大学ムンバイ校とプリンストン大学が発表した共同研究では、もし今後EVの大規模生産が中国やインドで加速すれば、2030年にはSO₂の排出量が中国で79%、インドで19%増加する可能性があると報告されています。SO₂は呼吸器疾患や心血管系への深刻な影響をもたらす物質であり、環境負荷の見直しは喫緊の課題です。

 同様に、日常生活に急速に入り込んできたもう一つの技術がAI。教育現場でも授業支援や業務の効率化などに活用され始めていますが、その裏にはまた別のリスクが潜んでいます。AIの運用には膨大な計算資源が必要であり、それを支えるデータセンターの多くが火力発電に依存している現状では、CO₂NOxといった温室効果ガス、さらにはPM2.5などの微粒子が大量に排出されているのです。

 カリフォルニア大学の研究では、大規模言語モデル「Llama 3.1」の開発によって排出されたNOxPM2.5の量は、自動車でロサンゼルスからニューヨークを1万回以上往復した際に発生する量に相当するとされています。

 こうした技術の光と影を、どのように生徒たちに伝えていくべきでしょうか?技術の進歩が新たな環境問題を生み出しているという事実から目をそらすことはできません。今こそ、歴史に学び、技術は誰のためにあるのか、そしてどのような未来をつくるのかを、問い続けることが不可欠です。情報に振り回されず、対話を通じて深く考える姿勢こそが、持続可能な未来への鍵になると考えるのは私だけではないはずです。