校長ブログ
英語教育を考える㉕ー理論と実践の架け橋:Instructed SLA
2025.10.31
教科研究
10月31日
|
B先生:最近、Instructed Second Language Acquisition(ISLA)という言葉を耳にするのですが、正直まだしっかり理解できていなくて...通常の第二言語習得(SLA)と何が違うのでしょうか?
校長:SLAは「自然習得」と「指導下での習得」の両方を含む大きな概念だけど、ISLAはその中でも、学校教育や授業といった「意図的に設計された学習環境」での習得を指すもの。つまり、教師の指導、教材、カリキュラムといった要因が中心になるんだね。
B先生:なるほど。授業での学びを扱うからこそ、学校現場の教師にとっては直接的に関わる研究領域なんですね。
校長:例えば、どのようなフィードバックが効果的か、文法項目をどの順序で提示すべきか、あるいは協働学習やタスク型学習をどう位置づけるか。こうした問いがISLAの核を成しているんだ。
B先生:明示的指導(explicit instruction)と暗示的指導(implicit instruction)の比較研究も多いと聞きました。
校長:明示的指導、つまり、文法説明やルールの提示は短期的に大きな効果を示すことが多いけど、暗示的指導、例えば、豊富なインプットや自然なやりとりは、長期的に定着する可能性があるよね。結局のところ、両者をどうバランスよく織り交ぜるかがポイントだよ。
B先生:授業デザインに直結しますね。他教科を英語で教えるイマージョン型のアプローチもISLAの研究対象になるのでしょうか?
校長:もちろん。むしろ近年は、言語教育と他教科の学びをつなげることに関心が高まっているよ。ISLA研究では、タスクの意味的側面が学習者の注意をどう言語形式へ向かわせるか―つまり「意味と形式の橋渡し」が重視されるんだ。数学を英語で学ぶ場面でも、自然に言語への注意が促される。そのプロセスをどう設計するかが研究テーマになるね。
B先生:なるほど。学習者の注意をどう喚起するか、という点ですね。
校長:シュミットの気づき仮説(Noticing Hypothesis)はISLAでも重要だよ。教師の指導がなければ気づかれにくい言語形式を、いかに自然な文脈の中で意識させるか。例えば、数学の授業で "Let's divide this number by..." という表現を繰り返し使えば、学習者は算数的意味と同時に英語表現にも気づくことになるよね。
B先生:私自身の授業でも、形式に焦点を当てる活動をどう組み込むか悩んでいます。
校長:大切なのはフォーカス・オン・フォーム(focus on form)。文法演習を独立させるのではなく、意味のあるコミュニケーションの流れの中で、必要なときに形式を取り上げる。この柔軟さこそが教育効果につながるんだ。
B先生:そう聞くと、授業での細やかな判断や即興性も研究とつながってくるのですね。
校長:そう。ISLA研究には統制実験も多いけど、最終的には「現場」に戻ってくるよ。教師の力量開発、カリキュラム・マネジメント、評価方法...これらすべてが関わっているんだ。だからこそ、私たちは研究成果を批判的に読みつつ、自校の文脈に合わせて応用していく必要があるんだ。
B先生:現場と理論の往還ですね。私も論文を読むと「これは理想的すぎるのでは」と感じることがありますが、実践的視点で読み直すと納得できる部分も多いです。
校長:研究のエビデンスを鵜呑みにするのではなく、自分の教室でどう活かせるかを考える。ISLAの強みは、実践と理論を結ぶ「架け橋」として機能できる点と言えるね。
B先生:今日のお話で、ISLAが単なる学術用語ではなく、授業改善に直結する視座だと理解できました。
校長:研究は学びの道具にすぎないよ。大切なのは、目の前の生徒がより豊かに言語を使い、学びを広げていくこと。そのために私たちは、ISLAというレンズを活かしつつ、日々の実践を磨き続けることが肝要なんだ。
|