校長ブログ

小中生の学力低下

2025.10.09 カリキュラム・マネジメント

10月9日

 全国学力・学習状況調査の経年変化分析調査で、小中学生の学力が下がったことが確認されました。小6の国語と算数、中3の国語・数学・英語のうち数学を除く4教科で、過去の基準年度より平均スコアが低下したのです。20年ぶりに「学力低下」がはっきりと数字に現れたと言われています。

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 今回の結果が重いのは、これまで日本が「学力回復」を果たしてきた経緯にあります。2000年代前半、経済協力開発機構(OECD)の学習到達度調査(PISA)などで日本の成績が落ち、「ゆとり教育」の見直しが進みました。その後は水準を取り戻し、さらにコロナ禍でも世界の中で比較的影響が少ないと評価されていました。それがここにきて覆されたのです。教育界に少なからぬ衝撃が走るのは当然でしょう。

 気になるのは、単に点数が下がったという事実にとどまらず、子どもの生活や家庭の価値観の変化とも深く関わっている点です。調査では、平日に1時間以上学習する児童生徒の割合が小6で37.1%、中3で58.9%と、いずれも前回調査より大きく低下しました。その一方で、平日に2時間以上テレビゲームをする小中学生は1割以上増え、中3では半数以上がスマートフォンを2時間以上使っています。

 さらに、家庭の経済力による格差も広がっています。自宅の本の数を指標にすると、低SES層の子どもほど学力の低下幅が大きいことが明らかになりました。保護者の意識にも変化が見られ、「学校生活が楽しければ成績にはこだわらない」と答える割合がコロナ期を境に上昇し、小6では約6割に達しています。

 もちろん、「成績にこだわらない」という価値観そのものは必ずしも否定されるべきではありません。学校は子どもが安心して学び、人間性を育む場であることも大切です。しかし、基礎学力が揺らぐことは、子どもたちの未来の選択肢を狭め、社会全体の学びの力を低下させかねません。

 専門家は原因を多面的に指摘しています。教員の多忙化により「基礎の徹底」が不十分になっていること、学びの形態に注力するあまり定着確認が疎かになっていること、受験圧力が弱まり勉強の必然性を感じにくくなっていること。そして、子どもがデジタル環境に受け身で接することで、言語操作力や思考力が低下している懸念もあります。

 今回の調査結果を前にして、私たちがすべきは「誰が悪いか」を探すことではありません。むしろ、学びの基盤をどう再構築するかを腰を据えて議論することです。子どもに自己調整力を育てると同時に、大人自身もリスキリングを進め、家庭・学校・社会が一体となって「生涯にわたって学び続ける社会」を実現していく必要があります。

 AIやデジタル技術が急速に進展する今だからこそ、人間の知性の質をどう保ち高めていくかが問われています。学力低下を単なる危機と捉えるのではなく、新しい学びの在り方を創り出す契機とする。その姿勢こそ、教育に携わる私たちが持つべきものだと考えます。