校長ブログ
デジタル地域通貨
2025.10.10
トレンド情報
10月10日
全国で「デジタル地域通貨」が急増しています。コロナ禍を契機に政府助成が拡大し、発行数は8倍に膨れ上がりました。地域の消費を促し、企業のデジタル化を後押しする事例がある一方、普及しないまま廃止されたものも少なくありません。ここで浮かび上がるのは、単なる流行で終わるか、地域に根づく仕組みとなるかの分かれ目です。ポイントは「地域のニーズを踏まえた明確な目的設定」にあります。
福島県会津若松市の「会津コイン」は、その成功例のひとつ。手数料を一般的なキャッシュレス決済の半分以下に抑え、店舗に購買データを還元することで経営に役立つ仕組みを作りました。単なる決済手段を超え、地域社会をつなぐ道具として機能しているのです。
一方で、地域通貨の多くは、助成が切れた途端に使われなくなりました。制度設計が不十分で、導入を担う人材も不足していたからです。ここに教育のICT導入との共通点があります。目的が曖昧なままタブレットやアプリを整備しても、子どもたちの学びは深まりません。むしろ「使ったこと」に満足して終わる危険があります。
教育で重要なのは「子どもたちにどのような力を育みたいのか」を明確にした上で、教材や手法を位置づけること。地域通貨も同じで、「地域をどうしたいのか」というビジョンを描き、その実現のためにどの機能を備えるべきかを考える必要があります。八尾市の「やおやお」が町工場と地域をつなぐ目的を掲げたように、明確なねらいがあって初めて持続性が生まれるのです。
ただし普及を阻む壁もあります。根強い紙文化や行政の縦割りは、教育界における学級単位や教科縦割りの構造にも似ています。本質的な変革を進めるには、従来の枠組みを超えた協働と柔軟さが不可欠なのです。
地域通貨の議論は、教育改革のそれと似たところがあるような気がします。デジタル化は「効率化」や「利便性」のためだけにあるのではなく、人と人とをつなぎ、共に未来を築くための基盤であるべきです。教育DXも同様で、デバイス導入やアプリ利用はゴールではありません。その先にある「協働による学び」と「持続可能な成長」をどう実現するかが問われています。
地域通貨も教育も、最終的に生かすのは人の知恵と意思。テクノロジーはそのための道具にすぎません。大切なのは「何のために」という問いを共有し続けること。その姿勢が、地域にも学校にも、持続可能な未来をもたらすと考えています。