校長ブログ

学習指導要領改訂に向けて

2025.10.21 カリキュラム・マネジメント

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 中央教育審議会の特別部会から、次期学習指導要領の論点整理素案が示されました。大きな柱の一つは、児童生徒の「情報活用能力」の抜本的な強化です。小学校では「総合的な学習の時間」に生成AIの学びが加わり、中学校では「技術・家庭科」が分離され、新たに「情報・技術科(仮称)」が設置される方向性が示されました。

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 情報教育の拡充は授業時数の増加を伴います。そのため素案では、学習内容の精選によって「カリキュラム・オーバーロード」を防ぐとともに、学校が独自に授業時数を組み替えられる「調整授業時数制度」の導入も検討されています。これは、各学校が教育目標や地域の実情に応じて学びを再構築する仕組みであり、まさにカリキュラム・マネジメントの実践を後押しするものです。

 もう一つ注目されるのは「ギフテッド教育」への特例制度です。特異な才能を持つ子供に、大学や外部機関で高度な学びの場を保障するという新しい挑戦が描かれています。通常の授業に収まりきらず、「分からないふりをするのが苦痛」と語る生徒が不登校になる現実を踏まえれば、「横並び」から「個別最適」への大きな転換だといえます。

 本校でもすでに、AIを活用した探究型学習や海外校とのオンライン協働を進めています。生成AIによるデータ分析や英語での発表を通じてICTや語学に秀でた生徒がリーダーシップを発揮し、独自の貢献を果たす姿も生まれています。こうした実践を通して痛感するのは、生徒の「強み」を活かした学びは本人のモチベーションを飛躍的に高めるだけでなく、仲間との協働をより豊かにするということです。

 制度を根づかせるには課題もあります。対象者をどう認定するのか?IQの数値だけでは捉えきれない才能は数多く存在します。外部機関との連携を誰が調整し、責任を持つのか?結局のところ、教師が子供の特性を見抜き、柔軟にカリキュラムを設計できる力量を持てるかどうかにかかっています。外部の専門家やNPOとの協働を推進し、学校の外に学びを広げる姿勢が不可欠です。

 海外では、優れた才能を持つ生徒に大学レベルの科目を学ばせる制度を設ける国が少なくありません。米国では、高校生が大学12年次に相当する科目を履修できる事例もあります。しかし一方で、規模を縮小した例もあり、各国とも試行錯誤を続けています。こうした事例は、日本が制度設計を進める上で多くの示唆を与えてくれるでしょう。

「ギフテッド」という言葉は「神から授けられた」という意味に由来し、突出した才能を持つ子どもを指します。ただし、学力に限らず、芸術や運動といった多様な領域においても用いられる概念であり、定義は国内外で議論が続いています。文科省はあえて「ギフテッド」という語を用いず、「特定分野に特異な才能のある児童生徒」と表現してきました。その背景には、固定的なイメージを避け、才能の多様な可能性を開いていく意図があると理解しています。

 情報教育もギフテッド教育も、「個別最適な学び」と「協働的な学び」の両立という、日本の教育が避けて通れない課題を正面から問うものです。制度や時間割の工夫以上に、教師自身が学び続け、仲間と共にカリキュラムを主体的にマネジメントする力を養うことこそがポイントとなります。

 教育は「一律」から「多様」へ。次期学習指導要領をどう未来の学びの再構築につなげるのか?保護者や教育関係者の皆様にも、この大きな変化を共に考えていただきたいと思います。生徒一人ひとりの可能性を信じ、その力を最大限に伸ばすために、学校と社会が協働して歩むことが求められているのです。