校長ブログ

平和を語り継ぐ責任とテクノロジーの力

2025.10.24 EdTech教育

1024日

 沖縄での地上戦から、今年で80年を迎えます。多くの住民が戦火に巻き込まれ、県民の4分の1が命を落としたと言われています。その現実を、遠い過去の出来事として片付けてはならないと思います。

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 95歳になられた翁長安子さんは、15歳で従軍した体験を今も語り継いでおられます。母校の高校生に託した「ひめゆりの塔の歌」には、単なる歌詞以上の意味が込められています。それは、恩師から受け継いだ平和への祈りであり、若い世代に自らの手で未来を創ってほしいという願いの結晶だと思います。

 しかし、語り部の方々が高齢となる中で、戦争体験を直接聞くことができる機会は減っています。ここで求められるのは継承者としての新しい役割を担う若者たちの存在。そして、その学びを支えるのがテクノロジーの力です。

 沖縄県では、中学生が仮想現実(VR)を通じて戦時の状況を体感する授業が始まっています。また、研究機関ではAIを用いて白黒の資料写真をカラー化し、当時の人々の生活をより身近に感じられるような試みが進められています。技術が子供たちの学びを補完し、体験のリアリティを高めているのです。

 一方で、重大な課題にも直面しています。AIは、同じ写真から虚構と現実が入り混じった映像を生成することが可能です。「記憶を継承する」という大義を盾に、史実がねじ曲げられる危険性は常に存在します。だからこそ教育に携わる者は、テクノロジーをどう使い、どう制御するのかという視点を持ち続けなければならないのです。

 平和教育とは、ただ「戦争はいけない」と繰り返すことだけではなく、具体的な史実と人々の声を根拠にして学ぶことに価値があります。虚構に頼らず、確かな記録を基盤に未来を考える姿勢こそが、生徒たちに受け継いでほしい姿なのです。

 平和を祈ることは誰にでもできます。しかし、平和を創ることは、学びと行動の積み重ねなしには実現しません。80年前の沖縄を起点に、私たち一人ひとりが、語り部から継承者へと歩みを進める必要があります。そして、その歩みを支えるものとして、テクノロジーを賢く使いこなす知恵が問われています。

 平和教育のあり方は、他人事ではなく、私たち自身の課題です。歴史をどう学び、どう語り継ぎ、どう未来につなげていくのか。その責任が、今まさに私たちに託されているのです。